追憶の日々


春分の日、春彼岸。
お彼岸のお墓参り。いつもは売れない花屋でも、この時期ばかりは忙しい。

「コレ、この黄色いの六本ちょーだい」

だるそうな声に女店員は振り返る。店先に立っていたのは銀髪の男だった。

「あら…アンタ、久し振りじゃないの〜」
「その節はどーも。うちのガキどもに代わって、たまには売り上げに貢献しねーとな」

知り合い、というか何というか説明しにくい相手である。お互いに。
以前、この男のもとで働いている部下(子供二人)がこの店先にスクーターをクラッシュさせたことがあった。店の修理費、花の弁償代も、まともに支払えないビンボーな男であることは確かだ。

「本当に悪いと思ってるなら、年に一回じゃなくて毎月でも花を買いに来てほしいものねん」
「あいにく花を贈る相手もいねーんだよ」
「あら残念……で、黄色の水仙六本でいいの?」

男が頷くのを見て、水桶から花を摘む。

「…結構、繁盛してるじゃねーか」
「こういう時期だけよ、忙しいのは。…そういえばアンタ、去年も同じ花買ってたわね。黄水仙の花言葉を知ってるかしら?…ん〜オトコが知るわけないか…」

代金を受け取って包んだ花を手渡すと、男は口元に笑みを浮かべた。

「花言葉なら知ってるぜ……私の愛に応えて、…私のもとへ帰って、…だろ?」
「!…ふふ、正解。…でも黄水仙の花言葉はそれだけじゃないの…って、あら…?」

少し視線を逸らしただけなのに、銀髪天然パーマ男は消えていた。

「んもう、つれないわね…」

元お庭番衆・脇薫は一息ついて店内に戻っていった。


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