頭が痛い。体が鉛のように重い。
鈍器で殴られた後頭部が熱を持ち、時折意識が飛びそうになる。銀時はかたらを抱きかかえて前に進んだ。避難はしごから庭木を伝い、何とか無事に着地できても安全圏に入るまでは気を抜けない。背後の楼閣は悲鳴を上げるかのように軋み、燃えていく。じきに庭木も火に包まれるだろう。

「っ……く…」

ぐらり、と眩暈に襲われては踏みとどまる。
まだ気を失いたくない。せめて、この広い敷地の隅まで避難しなければ…向こうの離れ座敷まで、もう少し…あと少し…そして最後の一歩手前。
負傷した右腕を伸ばし雨戸を開けると、中から小さな明かりが漏れた。幸いなことに人の気配はない。微かな生活臭が漂うも誰もいなかった。

銀時は座敷に上がって奥に敷いてある布団へと向かう。その途中で何かに躓き足がもつれた。咄嗟にかたらを庇いながら前に倒れる。
ころころと何かが転がって止まった。横目に映ったそれは手鞠だった。

「…っ、……かたら…大丈夫か…?」

ふたり畳の上で重なる。銀時は覆いかぶさるようにしてかたらを覗き込んだ。声をかけても返事はなく、かたらの目は閉じられたまま、静かな呼吸だけが聞こえた。
生きている。ちゃんと呼吸をしている。でも、それだけの確認じゃ足りない気がした。もっと確かめたいことがたくさんあるのに、かたらは目を覚まさない。

「……なぁ、かたら……お前に触ってもいい…?」

それでも、どうしても、触れたいという欲求が募る。触れて確かめたい。目の前にいる『かたら』という存在を確かめたい。

「…お前を……抱きしめてもいい…?」

愛しさゆえの欲求。

「……愛してる…」

朦朧とした意識のなかで告げる言葉。

「…かたら…」

名を呼ぶ。

「…かたら……かたら……」

繰り返し、繰り返し。

その雨に濡れた夕色の髪、冷たい頬を撫でていく…けれど、止血で痺れた指先では感覚を捉えきれなくて、もどかしくて、切ない。
もっと触れたい。確かめたい。かたらのぬくもりを感じたい。かたらが今ここに生きていることを実感したい。そんな欲求が、抑えきれない想いが溢れ、頭のなかがグチャグチャになる。

「っ、…かたら…!」

繋がりたい。ひとつになりたい。昔と同じように愛し合いたい。かたらのすべてを取り戻したい。心も、体も、記憶も、全部、ぜんぶ…
できることなら今すぐに、過去の記憶を戻してほしい。神がいようがいまいが、そう願わずにはいられなかった。かたらに思い出してほしかった。愛し合っていたあの頃を…

「………っ…」

ポタ…と、かたらの頬に水滴が落ちて気づく。
それが自分の涙で、どうして泣いているのかと一瞬疑問に思い、次の瞬間には悟った。今、自分は死の淵にいるのかもしれない、と。後頭部の痛みからくる眩暈や吐き気、悪寒で震える体…状態は悪くなっている。

「かたら……このまま俺が死んだら…お前はもう一生、俺を…過去の俺を思い出すこともねェ…んだろうな…思い出さないまま…俺を忘れて…俺以外の野郎と付き合って…結婚して…ガキつくって…年取ってくんだろ……」

もしも、これが最後なら…

「でもよ…俺ァ……お前が幸せならそれで……それでいいんじゃねェか…って思う…俺も…幸せだった……お前に出逢えたことが幸運だった…人生で二度も出逢えたんだ……それだけで良しとするさ…」

今、何をすべきか…

「…かたら……」

できることはひとつだけ…

「……愛してる…」

それは、最期の瞬間まで愛を伝えること。
銀時はかたらの頬にそっと口付けた。耳元で名前を呼び、愛を囁く……ふと、かたらが小さく身じろいだ気がした。

「…かたら…?」

少しずつ開かれていく目蓋…

「かたら……俺が…わかるか…?」

きっと、分からないだろう。薬物がそう簡単に抜けるはずがなかった。

「……………」

それでも、たとえ虚ろな瞳だろうと、今、かたらの視界には自分が映っている。

「かたら…俺は………」

お前の兄であり、恋人だった。
未来では夫になるはずだった。今は、そうなりたくてもなれなかった…ただの男。記憶を失くしたお前にとっては…
言っても無意味な台詞を呑み込んで、かたらを見つめる。すると……その唇が動いた。

「……ぎ……ん……」

「!…俺のことが…わかるのか…?」

かたらはふわりと微笑みを浮かべ、手を伸ばす。その指先が銀時の髪に触れた。

「……そーいやお前…俺の髪、いじるの好きだったよな……俺もそうだけど…」

結われた夕色の髪を掬い撫でると、かたらは嬉しそうに口元を緩めた。その唇に誘われるように、銀時は顔を近づけていく…

「っ……ふ……」

吐息が触れた瞬間には唇が重なっていた。
どちらが先に求めたのかは分からない…互いに引き寄せられたのかもしれない。何度も唇を啄ばんで、口腔内を探り舌先を絡めれば、かたらもそれに応えてくれた。
ふわふわと浮遊する意識。まるで夢の中にいるような感覚に陥る。これが現実か、妄想なのかも区別できなくなって、ただただ、やわらかな感触を夢中に貪る。

「…っ……お前を……抱きたい……っ」

もう止めるすべがなかった。まともな思考も、理性も機能しない。弁解するならば、これは愛しさゆえの行為だと訴える。たとえ許されない一方的な行為だとしても…
銀時は組み敷いたかたらの胸元を開き、顔を寄せた。夜着の腰帯はそのままに薄布を払い、左手で内股を探る。ふくよかな膨らみの先端に吸いつき舌で愛撫しながら、指先は秘部を弄っていく。

「……ん…っ……あ…ぁ……」

クチュ…水音が鳴ると、かたらの唇から吐息が漏れた。中心に入れた中指で内壁に刺激を与え、かたらの弱いところを攻める。
次第に狭い入り口が解れ、内襞がやわらかくなって愛液が溢れる。

「ぁ……あ、…っ……は……ぁ、ん…」

快楽に恍惚とした表情を見せるかたらが狂おしいほどに愛しくて堪らない。

「…かたら……いいか…?…抱いても……」

訊いたところで返事があるはずもなく、もはや止めるつもりもなかった。銀時は熱く屹立した己の肉茎を秘部にあてがって…中心を一気に貫いた。

「…っ、く……は、あ…っ…ぁあ……!」

かたらのなかは狭くて苦しいのに心地よくて…思わず感嘆とうわずった声が出た。でも、これは性的な快楽だけじゃない。ひとつに繋がる本当の喜びを、幸せを、呼び覚まし思い出させてくれた。深く深く繋がって、切なさに震える。
そして次には衝動に駆られ、本能的に体が動く。前後運動を繰り返すたびにかたらが揺れた。腰を引いては肉襞の奥まで突き上げて、身勝手な愛情と欲望をぶつける。

やがて…とうに限界を迎えていた身体と意識に更なる限界が訪れ、目の前が霞んでいった。真っ白に、まっしろに……


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