ガシャン…ッ!!

振り下ろされた斧により鉄格子の錠前が音を立てて砕け散る。勢いで扉が開き、銀時はようやく解き放たれた。

〔銀時殿!まずは呪縛牢の霊符を!〕

「わーってる!霊符を破りゃあいいんだろ?とっとと済ませて脱出しねーと…」

かたらが食い物にされてしまう…抑えていた焦燥感が再び押し寄せ手に汗を握る。

〔この扉の霊符を先に頼む!〕

言われて振り返ると檻の扉上に一枚貼られていた。銀時はそれを剥ぎ取ってビリビリと破り捨てる。面倒なことに霊符は一枚だけじゃない。すべて取り除かなければならないだろう。
次を探すべく辺りを見渡す銀時に、宗次郎が疑問の眼差しを向けてきた。

「…おにーちゃん、何して…」
「いいか、宗次郎…この霊符ってやつを剥がして破り捨てろ」

銀時は通路の壁に貼られた二枚目を剥がし、目前で破いて見せた。

「霊符…?」
「ここに囚われてる魂を解放してやんだよ…お前の母ちゃんも、その他大勢も…」
「!…お母さんを…」
「宗次郎、ここは墓場じゃねェ…墓っつーのはなァ、お天道様のいる地上にあって然るべきだ。こんな奈落の底に閉じ込められてりゃ成仏もできねーよ?せっかく吉原で空が拝めるようになったんだ…外の空気吸わせてやらにゃ可哀想だろ?」
「……うん」

宗次郎は素直に頷く。このまま言うことを聞いてもらえるとありがたい。

「よし!それじゃ、お前はあっちの奥まで行って霊符を剥がして来てくれ」
「穴の蓋に貼ってあるのを…僕が剥がすの?」
「そうだ、お前の手で母ちゃんを解放してやれ。…べ、べつに怖いコトなんてねーからなっ?怨霊だって元は人間だしィ、恨みの矛先は元凶の楼主に向かうワケだからァ…」
「いいよ、僕行ってくる…おにーちゃんはここで待ってて」
「あ、ああ…頼んだぞ?俺はこっちの入り口付近の霊符を剥がしとくわ」
「うん」

臆病な自分の代わりに、通路の奥へ歩み行く小さな背中を見送ろうとした途端、藤十郎が大声を上げる。

〔銀時殿!あの男が来た!〕

「んなっ!…楼主がっ?もうっ!?」

〔違う、あの下郎だ…!〕

銀時の上擦った声に宗次郎が振り向き、銀時もまた入り口を振り返った。その先に、そろりそろりと男の姿が現れる…

「ヒ…ヒゲのおじちゃん……」

宗次郎は急いで銀時の後ろに隠れた。それを見て、男は無精ヒゲをさすりながら溜息を吐く。

「…宗次郎、おめェ何やってんだァ?まさか、ソイツを逃がすつもりじゃねーだろなァ?」
「ヒゲのおじちゃん……もう、終わりにするんだよ」

隠れていても仕方ない…宗次郎はおずおずと銀時の横に並んだ。

「終わり?…何が終わりだってんだ?」
「……店仕舞いって言えば分かるかな」
「店仕舞いだとォ?バカ、おめェにそんな大層なことできるわけねーだろが…」

男は宗次郎から視線を逸らして銀時を見る。同時に刀の柄に手を添えた。

「白髪の兄ちゃんよォ、うちの若いモンたぶらかしてもらっちゃあ困る。そいつがいなけりゃ俺の仕事も手間取っちまうからなァ…」
「そうかよ…だったらテメーもいい機会だ。足を洗うっつー選択肢があるぜ?」

銀時は鉄格子に引っ掛けておいた斧を手に取る。

「ケッ、今更足を洗って何になるってんだ…何も変わりゃしねーよっ!」

男は刀を抜き、銀時に迫った。横薙ぎの次に袈裟懸け…いたってシンプルな男の斬り込みを避ける。気迫に欠けた攻撃は恐るるに足らず…

ガキィィン!

銀時の斧が男の刀を掃い飛ばした。そのまま斧を捨て、男の顔面に一発、二発、そして足払い…倒れた瞬時に背後を押さえ、首に腕をまわす。

「わりーな、もう約束しちまったんだ…この汚ねェ世界を終わらせるってよ」
「ぐ……ぁ…っ…!!」

銀時の絞め技に男は呆気なく失神した。

「ヒゲのおじちゃん…っ」
「安心しろ、殺しちゃいねーよ…それより早く行って来てくれ!時間がねーんだ」
「う、うん…!」

今度こそ宗次郎の背中を見送って、銀時は素早く行動に移る。男の刀を腰に差してから、目に付いた霊符を剥がしにかかった。

「オイ藤十郎さん!こっちのは全部済んだだろ?あとは宗次郎がやって…」

〔銀時殿っ、呪縛が…〕

僅かに、足元から振動が伝わってくるような感覚…それは次第に大きくなり、ピリピリと肌に刺激を与えてくる。

〔呪縛が……解ける…っ…!〕

藤十郎が苦しげに言った刹那に銀時の全身が総毛立った。

「オイオイ…なんか…ヤバくねーかコレ…」


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