ここ数日、降り続いていた雨が止んだ。所謂、梅雨の中休み。
空は薄っすらと雲がかっているが、晴れは晴れ、久し振りの太陽だった。
そして、かたら非番の日=家族デートの日。天気が良くも悪くも行く予定だった大江戸博物館を観覧した後、四人は近くにある商店街・アメノ横丁に来ていた。

「見て見て、かたら!昆布がいっぱい売ってるネ!酢昆布もあるアル!ここは天国アルかァァァ!!」

磯の香りに誘われて、魚介類や乾物を売る出店に立ち寄る神楽。おっちゃんに試食を勧められ、もりもりと食し「コレほしいアルな…」と小声で呟けば、隣にいるかたらの耳に入る。

「おじさん、この酢昆布詰め合わせ、一つくださいな」
「マジでかっ!かたら、ありがと大好きアルううう!!」

子供とはあざといもので、それを知りながら許容する大人もまた、あざといのかもしれない(餌付け)神楽は大袋に入った酢昆布を嬉しそうに抱きしめながら、商店街の先へ行ってしまった。

「かたら、あんま神楽を甘やかすんじゃねーよ?アイツ調子付くから…」
「いいじゃないですか。坂田さんが甘やかさない分、わたしが甘やかしてあげるんです」

銀時の忠告も、かたらは笑顔で跳ね返す。そんなふたりを見て新八は口元を綻ばせて笑った。

「フフ、それって何だか夫婦みたいですよ?銀さんが嫌われ役のお父さん、みたいな…イテッ」

新八の背中をはたく銀時の頬が少し赤くなっている。

「新八くんも、なにか欲しい物があったら遠慮せずに言ってね?」
「オイィ!だから甘やかすなって言ってんだろがっ」



平日でも混雑するアメノ横丁は食品の他に、衣類、雑貨、宝飾品の店舗が入り混じっている。
飲食店も多く、様々な食べ物の匂いが合わさり美味しそう、というよりは複雑なフレーバーだ。店頭で売られている衣類にその匂いが染み込んでいそうである。

「そこの可愛いお嬢さん、貴女にぴったりの商品がありますよ〜」

散策中、かたらが宝飾店のイケメン店員に呼び止められた。

「え?あの、わたしは…」
「見るだけタダ、試着もタダですよ〜どうぞお入りください」
「とか言ってェ押し売りするつもりだろォー?どーせ」

銀時がズイッとかたらの前に出る。

「しませんよ〜彼氏さんですか?どうです、婚約指輪でも見ていかれては?」
「…ぜってー押し売りする気だよコイツぅ」
「銀さん、嬉しそうなんですけど」

彼氏と間違えられたのが余程嬉しかったのか、店内に入っていく銀時。見るだけはタダなので皆、後に続く。

「ピンからキリまであるアルな。あっちのは何百万もするのに、こっちのは千円の値段ネ」
「見て神楽ちゃん、このヘアピン可愛い」

はしゃぐ女子を尻目に見て、銀時と新八はガラスケースの中に並べられた指輪に視線を移す。

「流石にそれなりの値段してますね、指輪って…」
「なァーぱっつぁん、俺の給料三ヶ月分って……いくらだ?」

万事屋の起伏ある仕事状況だと算出が難しい。

「銀さん、その考えはもう古いですよ?値段なんて関係ないですって、大切なのは気持ちでしょ」
「…まーそうだな…ウン」
「何です?プロポーズするつもりですか?かたらさんに…」
「バッ、…んなコトできるワケねーだろ…っ」
「そうやって余裕ないのに余裕かましてると、誰かに奪われちゃいますよぉ?かたらさんを」
「っ……」



そうこうしている内に午後三時を過ぎ、一行は茶屋の店先で一休み。
それぞれ好みの餡蜜を食べ、人混みを歩き疲れたせいもあって、少し眠気に襲われていた。

「…わたし、ちょっと行ってくるね」

急に思い立ったのか、かたらが腰を上げる。

「何アルか…厠アルか…?」
「ちょっとね、買おうかどうか迷ってた物があって…やっぱり買っておこうって思ったの。すぐ戻ってくるから、待っててね」
「わかったネ…お昼寝して待ってるヨ…」
「かたらさん、気をつけて行ってきてくださいね」
「押し売りに気をつけろよー…」

半分寝かかっている銀時が子供のようで可愛い。いつも銀時の気だるげな感じが、かたらの母性本能をくすぐる。

「ふふ、坂田さんもお昼寝しててください。戻ったら起こしてあげます」
「おぅ…頼むわ…」

銀時は遠ざかっていくかたらの背中を見送って目蓋を閉じた。



「あれ?お嬢さん、また来てくれたの?」
「ええ、高い物は買えませんが…」
「安い物でも買って頂けるなら幸いですよ〜散りも積もれば商売繁盛〜ってね」

かたらは宝飾店に再び足を踏み入れると、気になっていた商品を眺め、悩んで、色違いで同じ物を二つ購入した。一つは自分用、もう一つは妹分・神楽へのプレゼント。お揃いの髪留めである。
それから店を出てふと考えた。日頃の感謝を込めて、銀時と新八にも何かを贈りたい、そう思って頭をひねる。しかし、男子が欲しがりそうな物など見当がつかなくて、かたらはあっちこっちと店をのぞき歩いていった。

それは狭い十字路に差しかかったときだった。

「!」

横から来た気配にかたらが身構えると、小さな男の子が胸に飛び込んできた。

「わ…っ!?」
「…ごっ、…ごめん、なさい…っ」

まだ十歳にも満たないだろう少年は何故か泣いている。

「!…きみ、どうしたの?なにかあったの?」

虐待から逃げてきたのか…そう思ったが、少年の衣服に乱れはなく、顔に傷もない。身なりは小奇麗で良いとこの坊ちゃん風であった。

「僕の猫がっ……猫の様子がおかしいんだ…っ!」
「…ねこ…?」
「うん…おねーちゃん見てくれる?とっても苦しそうなんだ…あっちにいるよ」
「わっ、待って…」

少年はかたらの裾を引っ張り、路地裏に入っていく。


2 / 5
[ prev / next ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -