武装警察真選組に再び平穏な日々が訪れた。
攘夷浪士を大量検挙した後しばらくは、攘夷活動も静粛になるようだ。
そんなこんなでかたらは今、屯所から一番近い大型スーパーに遊び…買出しに来ていた。あまりにも暇すぎて手が空いてしまい、土方におつかいを命じられたのだ。山崎も一緒である。ふたりは先に頼まれたもの(マヨネーズ)を箱買いして車に詰め込んだ。

「土方副長って不思議です。あんなに高カロリーなマヨネーズをたくさん摂取しても太らないなんて…うらやましい体質です」
「マヨネーズは飲み物って思ってる人ですからね…アレ絶対早死にしますよ。煙草もヘビーだし…かたらさんだって嫌じゃないですか?副長とずっと一緒だと、受動喫煙してることになるでしょ?」
「わたしはいいんです。我慢できるし…でも、副長の健康を考えると…禁煙してもらいたい気持ちはあります」
「アハハ、副長に禁煙は無理だろうね。逆にストレスで不健康になりそう」
「イライラしちゃいますからね」

フレンドリーに話しながら、スーパーの入り口に戻る。

「それじゃ二十分後、ここに集合でいいかな?」
「はいっ」
「かたらさん、何買うの?」
「ファブリーズです」
「消臭スプレー?」
「はい。タバコの臭いを消してくれるスグレモノですっ…あの、土方副長にはナイショですよ?副長がいない隙に副長の部屋とか服とか、あちこちにシュッシュしてることは言わないでくださいね」
「……かたらさんも苦労してるね…」



そうこうして自由時間。
かたらはお目当ての物を手に入れて、スーパーの外にあるベンチで休んでいた。
季節は丁度、春と夏の境目に入ったところ…もう少し経てば梅雨になるだろう。それまでは、この暖かな陽射しを感じていたい。

「……!」

スッと横から影が差し込んで、かたらは顔を上げた。

【かたらさんですね?】

目の前には白いプラカード。黒のマジックでそう書かれている。振り向くと、そこにヘンテコな生き物が立っていた。

【はじめまして、エリザベスといいます】
「…エリザベス…?」

白いペンギンのような生き物。背丈は銀時より少し高い。言葉を話せないのか、プラカードを使って会話をするらしい。

【桂さんに頼まれました】
「桂…桂小太郎さんのこと…?」

エリザベスはキュッと頷き、ニュッと何かをかたらに差し出す。

【昔、あなたが愛用していたモノだそうです】
「?……」

かたらが受け取ったモノは小瓶だった。桃花色の蓋には『花の露』と商品名が書いてある。どうやら香油のようだ。

「これが、わたしの……」

昔、自分が愛用していた匂いがここに詰まっている…そう考えるだけで緊張してしまう。果たして自分はこの香油の匂いを覚えているだろうか、覚えていなかったら…と不安がよぎる。
困惑してエリザベスを見れば、早く開けろと言わんばかりにこちらをガン見している(見守っている)かたらは覚悟を決め、震える手で小瓶の蓋を回した。
外した途端、ふわりと舞い上がるような花の香りに襲われる。

「!……この匂い…っ…」

一瞬、頭の中が真っ白になって意識が飛んだ。

そっと、やさしく、後ろから、髪を撫でられている……誰に?

「っ…!?」

ほんの一瞬の出来事。刹那の記憶。子供の頃の…?
かたらは思わず振り返った。もちろん、そこに誰がいるはずもなく、ただ薄汚れた建物の壁があるだけだった。

「………」

そして、妙な生き物エリザベスも姿を消していた。



***



公園にて銀時はかたらを待っていた。
久し振りのデート(コブ付き)である。正直、コブ(新八神楽)を取り除いて、かたらとふたりっきりになりたかった。けれど理性を保つ自信がないのでやめておく。かたらに嫌われたくはない。

公園の時計を見ると、約束の時間より十分前。
早く着いたこともあって、コブたちは公園にいた他のチビガキどもの相手をしていた。銀時はひとりベンチに座り、かたらを待ちわびる。そろそろ来るだろう…と思ったら横にいた。

「!?」
「坂田さん、早かったんですね」
「…気配消して近づくなってェ、びっくりすんだろー?」
「べつに消してませんよ?…坂田さんが何か考え事してたんじゃないですかー?」
「…別にィーそろそろ来るかなーって思ってただけだっつーの」

言って立ち上がると、思いのほか距離が近くて内心焦る。たった今、半径1m以内にかたらがいる。それだけで五感が刺激を受けるような…

「アレ?……この匂いって……」
「あ、気づきました?」

身長差のせいで、かたらの顔が上向きになる。ふわりと香る微かな花の匂い…それはとても懐かしい、かたらの匂いだった。

「お前の匂いだ……すげェ懐かしい…」
「この間、エリザベスという名前の白いペンギンさんに香油をもらったんです。桂さんからだって……!?」

無意識か本能か、どちらか分からない。銀時はかたらを抱きしめていた…強く、強く胸に閉じ込めて…

「かたら……っ」
「んっ……む……ぅう……っ!!」

ハッと気づいたときにはもう遅かった…防ぎようがなかったのだ。



「あの、ごめんなさい…苦しくって、つい…」

銀時は股間を押さえて地面に横たわる。かたらはつい、例のクセとやらを発動してしまったらしい。

「銀さん…かたらさんに何したんですか?」
「かたらにセクハラでもしたアルか?」

いつの間に戻ってきたのか、新八と神楽にジト目で見下されていた。

「急に抱きついてくるから驚いちゃって…」
「銀ちゃん、サイテーアルな。…かたら、こんなヘンタイほっといて、私とあっちで遊ぶヨロシ!」
「わっ…」

神楽がかたらを引っ張っていく。

「あー…かたらからイイ匂いがするアル!」

ふんふん、と犬のように嗅ぎながら、かたらに抱きつく。

「神楽ちゃん、匂いわかる?」
「花みたいな甘い匂いネ…香水アルか?」
「香油だよ、髪につけるトリートメントみたいなものかな」
「私、香水苦手だけど、かたらの匂いは好きアル」
「ほんと?」
「ウン!おいしそうな匂いアルヨ?」

女同士で馬が合うのか、かたらと神楽は本当に仲が良い。気兼ねなくかたらと触れ合える神楽に、銀時は嫉妬心を抱かずにはいられなかった。

「…チッ、……イタタ…」

銀時は起き上がってベンチに座り直す。かたらの金的なんて、あの時(陰陽師篇)の痛みと比べれば大したことはない。

「かたらさんは何もつけなくたって素でイイ匂いがするのに……あ」

新八が聞き捨てならない言葉を口から滑らせた。

「…新八…何それブッ殺されてーの…?」
「や、違いますっ、そーいう意味じゃ…やらしい意味じゃなくて…っ」
「童貞がっ!お前はアレだ、かたらの近くで息を吸うな。かたらの匂いを嗅ぐことを禁ずる」
「べ、別に嗅いでるワケじゃないですから!呼吸して鼻に入ってくる匂いです、空気ですからねっ」
「かたらの半径8km以内に近づくな、即刻逮捕だコノヤロー」
「ちょっ、ストーカーは銀さんでしょっ!8kmて何ですか、新八の8とか言わないでくださいよっ!」
「おまわりさーん、こっちでーす!」
「オイィ!それはこっちの台詞だろーがァァァ!!」


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