「旦那、これ約束の品でさァ」

茶屋の店先、長椅子に座った男がふたり。真選組一番隊隊長・沖田総悟と、万事屋・坂田銀時の両名である。
スッと、ふたりの間に置かれた品とは茶色の封筒だ。

「…中をあらためさせてもらう」

言って銀時は茶封筒を開け、中から数枚の写真を取り出した。
被写体は…そこらの美人より、芸界のアイドルや女優より、気品ある顔立ちの女性に思えるが…

「……なんつーの?実物には勝てないっつーか…」
「文句言わねーでくだせェ…充分キレイに撮れてまさァ」

鮮やかな夕色の髪、凛とした表情に微笑を浮かべるかたら…の写真を銀時は食い入るように見る。けれど所詮、写真は動く実物には勝てない。これは会えない時間の目の保養、会うまでの繋ぎでしかない。

「…六年前はまだガキだったのにな…随分と大人びちまったもんだよ…」
「体付きも?」
「…今みてーにボンキュッボン、じゃなかったことは確かだな…」
「立派に育ったワケですねィ」

銀時は一枚ずつじっくりと眺め、全身が写った写真に目を止める。

「つーかさ…この隊服、どうにかなんねーの?この短いやつぅ…ダメだろコレ…パンツ見えちまうってぇ」

注目すべきは体付きよりも、かたらがはいているプリーツスカートだ。屈めばパンチラ確定どころかパンモロの可能性もある。

「旦那までどっかの野郎と同じこと言ってらァ…こりゃ松平公の趣味なんでどーにもなりやせん。それに、下はパンツじゃないから見えても平気、だそうでさァ」
「見えても平気、なワケねーだろぉ?このフトモモ!実にけしからんエロさ…」

スカートとニーハイソックスの間、尻から太ももにかけてのラインが素晴らしい。そして生肌が眩しい。写真を通しても伝わるエロティシズム…それを愛でる行為、かたらを独占できないことが悔しくて悲しすぎる。

「フェチには垂涎モノ…そういや『葉月を愛でる会』が発足して騒いでる奴らが…」
「ちょっとナニそれ…頼むからっ、そーゆー目で見るのやめてくんない?」
「目前にイイ女がいりゃ、そーゆー目で見ねェ男はいやせんよ。旦那こそひどいモンでさァ」
「俺はいーんだよ、あいつを汚していいのは俺だけって決まってんだよ」

本来なら夫婦の間柄になっていたはずで…そんな、今はもう有りもしない、強みとも言えない気持ちが精神の一端を支えている。

「フーン、そいつァどーでしょうねィ…まーまー、次の写真見てくだせェ」
「あん?……っ!?」

これは沖田の悪意以外の何物でもない。かたらと一緒に写っているのは土方であった。ふたりともカメラに気づいてない様子、そのせいか自然な表情を浮かべている。

「旦那ァ、のんびりもたもたしてる暇ありやせんよー」

銀時は顔中を引きつらせた。

「っ……」

笑みをたたえ、土方を見つめるかたらは純情可憐な乙女の雰囲気を醸し出している。そして土方の表情は、かたらに信頼を置く…否、それ以上の感情がうかがえるものであった。

「特別扱いはしないって言ってて、この有様…鬼の副長も女にゃ甘いんです。最近の土方さん、ちと様子が変でしてねィ…葉月を見る目が変わってきたというか…」
「オイオイ、どんな目でかたらを見てるってんだよ」

訊かなくても分かることだった。

「土方さんだって男ですぜ?我慢できなけりゃ間違いも起こるでしょう」
「間違いって…ないない。かたらには貞操を護るよーに散々、口が酸っぱくなるほど言って……ダメだ、あいつは心を許した相手にゃ警戒心が薄れる」
「葉月はああだから、その場の雰囲気に流されるかもしれやせんねィ」
「ぐぬぬ…」

そんな軽い女じゃないと信じたい…が、今のかたらはフリーである故に操を守る義理がないのだ。

「旦那は葉月が記憶を取り戻すまで待つつもりでしょーが…思い出す保証なんてありゃしやせん。そーでしょ?」
「………っ」
「なら、ここいらで一歩踏み出してみたらどーです?」
「…もっと親密になれってか?焦ったって仕方ねーだろ…」
「少しは焦らねーと野郎に取られちまいますぜ?それでもいーならどうぞご勝手に…」
「!…待って、沖田くんんっ」

銀時は立ちあがろうとする沖田の腕を掴んで止める。捨てられそうな子犬の気分に他ならない。

「安心してくだせェ…俺は土方さんより旦那の味方…と言っても、旦那よりは手前の味方ですが…」
「は?…沖田くん、それはどーいう…」
「まー、第三者に美味しいところを奪われねーように気をつけろってコトですよ」

言って、今度こそ沖田は腰を上げた。

「旦那、今日はこの辺で失礼しやす。最後にとっておきの写真が入ってるんで…保存用、観賞用、実用用に使ってくだせェ」

沖田はスッと右手を上げて、飄々と去っていく。
銀時は何も言えず、その背中を見送る。まさかとは思うが、沖田もかたらに気があるのだろうか…端から信用してなかっただけに疑わしい…けれど、向こうの情報を知るには沖田が必要不可欠だ。

「…結局、かたらに近づく野郎全員、敵ってことか…」

ひとりごちて溜息を吐く。それから気を取り直して写真をめくってみた。

「!?」

最後の写真はどう見ても盗撮だった。そして同じものが三枚。
淡い色彩の浴衣を身に纏ったかたらが縁側に座り、柱に寄りかかって眠っている写真である。おそらく、湯上りの熱を冷まそうと休んでいるうちに居眠りしてしまったのだろう。
ほんのりと上気した頬に、薄く開いた唇。乾き切っていない夕色の髪がゆるやかに片方の肩に流れ、白いうなじがのぞいている。さらに襟元もゆったりと開いているため、胸の谷間がチラリと…

「…実用……いやいやいや、そんなまさかぁ……いや、それもアリか……いやでも…」

悶々と悩む銀時であった。


3 / 6
[ prev / next ]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -