最近、葉月の様子がおかしい…と、土方十四郎は眉間にしわを寄せ、道場の縁側で煙草をくゆらせていた。
小休憩に電話していたり、昼休みに外へ出たり、仕事が早く片付いた夕方に出かけていくこともあった。そんなかたらが気になって仕方がなかった。
一体どこに、誰に会いに行くというのか…男でもできたか?と不安になってしまう。というか何で不安にならなくちゃいけないのか、と自問して自答する自分が恥ずかしいし、歯痒い。
かたらがどこへ行こうが何をしようが、かたらの勝手であって自由である。仕事に支障があるなら上司として文句も言えようが、真面目なかたらに死角はない。

「副長、気になるなら訊いてみたらどーです?」

夜稽古に参加していた山崎が隣に座り、ずばっとツッコんできた。

「…訊いた。…オトモダチに会いに行くんだとよ」
「お友達……それ、副長は『男』だと思ってんですか?」
「知るかよ、男だろーが何だろーが俺には関係ねェ…」

言っておいて、不愉快に思う自分が不愉快で堪らない。土方は夜空をにらみながら紫煙を吐いた。
その気持ちを知ってか知らずでか、山崎がぽつりと言う。

「…俺、知ってますよ」
「………は?」
「かたらさんが誰と会ってるのか知ってます」
「……何で?」
「何でっていうか、訊いたらフツーに答えてくれたんですけど…万事屋さんのところに遊びに行くって…」
「…何で万事屋?つーか何でお前には素直に話してんだ?葉月のやつ…」

土方は怒りマークを頬に浮かべつつ山崎の胸元を締め上げる。

「うぐっ…ふくちょ…くるじいです…っ」

言われてパッと手を放し、答えを求める。

「ケホッ…そりゃ『万事屋』って言葉を出せば…副長が怒るのは目に見えてますからね…追求されなきゃ黙っておいたほうがいいと、思ったんでしょ…多分…」
「っ………」

もしかして、ガミガミとうるさい男だと思われている?嫌われている…?

「女性と子供は打ち解けるのが早いんですよ。新八くんたちのこと、弟や妹ができたって喜んでたし…旦那のことだって……イヤ何でもないです」
「遠慮する必要はねェ…言ってみろ、怒らねーから」
「あの最初から怒ってますよね?」
「いいからさっさと言いやがれ」
「…万事屋の旦那のこと、お兄さん的存在として…慕ってるみたいです…ね」

鬼の副長がまさしく鬼の形相になる。
だから言いたくなかったのに…後悔しても時すでに遅し。理不尽な怒りをぶつけられ、屯所内に山崎退の悲鳴がとどろいたことは言うまでもない。



***



翌日、悶々と悩むのも馬鹿らしくなり、土方は思い切って直球を投げた。

「葉月…お前、万事屋んとこに行ってんのか?」
「!……はい」

かたらは素直に返事をする。

「…そうか……楽しいか?」

何でそんな質問をしたのか、自分でも分からない。

「はい、楽しいです…」
「そうか…ならいい」

…ならいい!?いいワケねーだろ!と、心の中で自分にツッコミをかます。

「…副長、…怒らないんですか?」

かたらが不思議そうな表情を見せる。

「何だ?怒ってほしいのか?お前は…」
「いえ、…そういうわけじゃないんですけど…」
「けど?」
「絶対怒るからって坂……いえ、なんでもありません」

ピキッと土方の顔が引きつる。

「…何?坂?坂田?…アイツが言ったのか?俺が怒るから黙っとけって?お前はアイツに言われて隠してたワケかァ?」
「ちっ、違います!隠してないですよ?」
「隠してたよーなモンだろが」
「隠してません!訊いてくれれば答えましたよっ?」
「ちゃんと答えてねーだろがっ」

結局、口うるさく文句を言う破目になってしまい、それが自分らしいと開き直る始末。

「前言撤回させてもらう…百歩譲ってガキどもと仲良くするのはいい…だがな、あの男はやめとけ。アイツに関わるとロクなことにならねェ」
「…そんなに嫌いなんですか?坂田さんのこと…」
「………」

嫌いとか好きの問題じゃない。単に気に食わないだけ…って嫌いってことか。

「気に食わないんでしょう?」
「!」
「…副長も坂田さんも似たもの同士ですね」

何を根拠にそう言えるのか。ものすごく不本意である。

「似てねェ…あんなのと一緒にすんな…」
「副長ってば意地っ張り」
「…お前、最近やけに突っかかってくんじゃねーか…アイツに感化されたか?」
「そ、そんなこと…っ」

その中途半端な否定に我慢ならなかった。土方はダンッ!と、かたらを壁に押しやって顔を近づける…

「とにかくっ…もうアイツに会うんじゃねェ…!」
「…どうしてそんな…副長にそんなこと言われる筋合いは…」
「お前になくても俺にはある…っ!」
「……」
「俺は…お前を…っ」

………沈黙。

「あの、……副長…?」

困惑したかたらが恐る恐る口を開いた。

「っ……察してくれ」

土方はそう言い残し、その場を逃げた。情けなくとも逃げることしか考えられなかった。


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