それぞれの想いぱちりと目が覚めた。
かたらは布団から腕を伸ばし携帯電話を探り掴む。まだ、目覚ましアラームが鳴るより早い時間だった。余程疲れていなければ二度寝はしない主義…これは性分だろうか。記憶を失くす前もそうだったのだろうか…
『記憶を失くしても…お前はお前で安心した』
性格は変わらない…と、銀時は言っていた。
「………」
かたらは少しだけ自らをかえりみる。
自分が何者で、どう生きてきたのか分からずに、これからどう生きようかなんて決められなかった。だから、流されるままに今をやり過ごしてきた。指示されたことを実行するだけ…それが楽だったからだ。
過去も未来も怖かった。自分を見つめ、自分のことを考えるのが怖かった。いつだって『欠陥品』だと思い知らされるからだ。
かたらは小机の上にあるお守り袋を手に取って見つめる。
今のわたしがわたしだと、胸を張って言える日が…いつか来るだろうか?
『んな悩むこたァねーよ。記憶が戻っても、戻らなくても…お前はお前として生きりゃあいーんだ』
不意に銀時の声が思い起こされる。別れ際にもらった台詞がこの胸を貫き、心にとどまっている。まるで、ずっと前から待ち望んでいたような言葉…それを銀時はさらりと自然に言ってのけた。
「わたしは…わたしとして…」
銀時の言葉、その声、眼差しを繰り返し頭の中で思い返す。こんなにも自分を思いやってくれる人がいるのだ。どうにかして思い出してあげたい、記憶をたたき起こしてやりたい。
かたらは目を閉じ、自ずと深層心理を覗こうとするが…
「……痛っ…」
脳は拒否反応を示すかのようにビリリと痺れる。
過去を思い出そうとするたびにこんな状態になるのはどうしてだろうか。医師免許を持っているとはいえ、臨床心理学は専門外のかたらには分からなかった。
「焦っても仕方ないかぁ…」
いつか自然に思い出す…そう信じて前向きに考えるしかない。
『なるべく……会いたいんだけど』
と、銀時も言っていたし、過去を知る人物と付き合うことが記憶喪失の治療となるのもまた事実。
『非番の日とか…外に出れそーな昼休みとか…仕事上がりの夕方とか…とにかく、余裕があるときでいい…時間が空いたら、その……会わねーか?そーすりゃうちのガキどもも喜ぶし、…お前も気分転換になるんじゃねーの?…それが俺の条件なアレなんですけど』
何故か恥ずかしそうに目を泳がせていた銀時。出された条件はかたらにとってもありがたいものだった。
会いたいと思ってくれる人がいる。会いたいと思う人がいる。
そんな感情がうれしくて、どこか懐かしい…気がするような、しないような曖昧さ。それも仕方ないと苦笑する。
「……会いたい…」
そう口にすると考えてしまう…過去の恋人は今どこにいて、何を想っているだろうか、と。
もし、わたしが生きていると知ったら…会いたいと思うだろうか…?
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