伸ばした指先がかたらの髪に触れた。夕色の滑らかな感触に指を絡め、垂れた横髪を耳に掛ければ輪郭が表れる。その濡れた頬にそっと手を当てた。少し冷たく感じたのは涙の所為、それを拭い撫でるとかたらは身じろぎ手のひらに唇を寄せてきた。親指の腹に柔らかな熱を感じた。

「……晋助、私…」
「何も言うな……何も言わなくていい」

言葉を遮って高杉はかたらを組み敷いた。
見つめ合えば互いの瞳に熱が灯る。一度、二度、やさしく唇を重ねて…三度目は深く…それはふたりが初めて交わした口付けと同じように。かたらの目尻からまた涙が溢れ出ても、その意味は昔とは違った。今この瞬間、互いに互いを求めているということ…互いの存在を認め受け入れた先に何があるのか、そして何より己の真意を確かめたかった。
高杉は再びかたらの唇を塞いだ。舌先が絡まれば蕩けてしまいそうな程に、脳が痺れ体中の神経が官能に沸き立つ。

「…ん……っはぁ……」

かたらの小さな喘ぎが甘く響く。唇から耳元、首筋に口付けながら衣服を剥ぎ胸を弄るとかたらは震えた。その鼓動が手のひらに伝わってくる。
幾許の緊張の中で、かたらがどういう気持ちで覚悟を決めたのかと思う。赦されぬ過ちに後悔するとしても、繋がりたいと望むなら…否、繋がりたいと切に望んでいたのは己で、ずっとこうしたいと願っていた。捕らえ、離さず、自分だけのものにしたいと…

「…かたら……」

名を囁くと、かたらは腕を回して答えてくれた。
高杉はかたらを抱き上げ小上がりの布団へと下ろした。二つの腰紐を解き、余計なものを取り去れば素肌が触れ合って密着する。そのあたたかさに、心地よさに、もっと快感を味わいたくて更なる快楽を求めた。
唇で、舌先で、手で、指先で、愛撫する。かたらの体の隅々まで、秘部の奥まで指で犯して…その充分に濡れたところへ己を突き立てた。

「あぁ…っ…!!」

肉茎に深く貫かれ、かたらは高杉の背中に縋った。ゆっくりと、それでも力強く律動を続けるその背に爪を立てて震えた。

「っ、…しん…すけ……!」
「…かたら…っ…!」

やっと、ようやく、ひとつに繋がったという喜びがあった。けして繋げてはいけないと、繋がることはないと思っていた…けれど今、確かに繋がっている。

「…もっと…っ…激しく、して……抱いて…っ…」

そう強請る唇に吸い付き、腰を振る。仰せのままに…言われなくともこの情動は止まらなかった。恋しくて、愛しくて、堪らない。かたらのすべてが欲しかった。かたらの身も心もその全てを奪い、誰の目にも晒さず触れさせず己だけのものにしたかった。そんな醜い欲求に、嫉妬に身を焦がす。

高杉はかたらの最奥に熱を放ち、また唇を塞いだ。逃さないようにと強く抱きしめても、この腕の中に留めておくことはできない…かたらは何れ去っていく。そう分かっていたからこそ触れたくなかった…触れてしまえば抑えられない感情があると知っていた。

「んっ……ふ…っ…ぁあ、っ…!」

濃厚な口付けに呼吸を乱すかたらは淫らで美しい。その耳朶を舌先で舐って首筋に吸い付けば、そこに赤い痕が刻まれる。胸に、腕に、印を付けて…それが意味するものは何か、愛情か、嫉妬なのか…
繋げたままの体が熱くなる。小さな火は炎となり猛炎と化し、己の獣が解き放たれる。愛しさだけならよかった…ただの愛しさだけなら…

「かたら……」

この愛は歪んでしまった。

「…しん、すけ………っ!?」

高杉はかたらの両手首をきつく掴み上げ圧し掛かった。かたらは胸部の圧迫に声も出せずにいる。驚きに目を見開くその表情がどう変わるのか見てみたいと思った。果たしてこの獣の懊悩を、その心と体で受け止めることができるのか、と…

「ひっ…あ…あぁ…っ…!!」

深く、鋭く、抉るように奥を突く。激しく一方的な攻めにかたらは喘いだ。それは嬌声というより悲鳴に近い。その苦しげな声に気持ちが昂るのは何故か…性的興奮のみならず、支配欲、独占欲、嫉妬心そして…この狂おしい愛に相反する感情がここにあった。
憎しみがそうさせるのだ…愛しさと、憎さゆえに。

「っ、…かたら……かたらっ……!!」

高杉は激情に駆られ結合部に腰を打ち付けていく。やはり、ずっと昔からこうしたいと願っていた…本能のままにかたらを傷つけて、壊して…

「ぅ、ぐ………し…ん……っ…」

細い首に手を掛ける。指が食い込むとかたらは息も吸えずに悶えた。こうやって殺して、死んでしまったならどうする?と己に問えば答えは瞬時に思い浮かぶ。かたらが死んだらその血を飲み干し、肉と臓物を食し、残った骨さえも砕き己のなかに取り込んで…

「…かたら……」

そうすれば、もう誰にも奪われずに済む。それとも…遺体に防腐処理を施し、何時までも傍に置いておこうか…

「…かたら…っ……」

結局、己の本心なんてものは突き詰めるまでもなく端から知っていた。傍にいてほしい、ただそれだけが望みだった。

「かたら、っ……!!」

果てる直前、かたらの肩口に歯を立てた。強く噛み付き、射精して、頭の中が真っ白になる。



このままふたつ溶けてしまえばいい、赤く染められた水平線に沈む夕日のように。


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