大江戸公園の桜は満開、絶好のお花見日和。
広い公園の一部を貸し切って、真選組一同揃っての宴は和気藹々と始まった。かたらは女子袴に身を包み、隊士たちも皆私服姿。今日一日は仕事を忘れて花見酒、美味い料理を楽しんでいる。

「わたし、飲めない体質なんですよ〜、代わりに飲んでいただけますか?」

かたらはにこりと笑顔を見せる。こちらから酌をすれば、相手はそれだけで気分が良いらしい。自分の歓迎会を兼ねた花見、本来なら主役が飲まないわけにはいかないが、のらりくらりと言い逃れてきた。
あっちこっちと挨拶に追われ、それが終わって土方のもとへ戻る。

「オイ葉月、……セクハラされなかったか?」
「ふふ、そんなことされませんよ。みなさん紳士でした」
「今のところは紳士でも、酔いが回りゃあバカ騒ぎのやりたい放題なんだよ、あいつらはァ…」
「副長もそうなるんですか?」

かたらは清酒の入った徳利を傾けて、土方の盃になみなみと注ぐ。

「…バカになるほど飲めねーよ。…で、お前は俺を酔わせてどーするつもりなんだ?」
「どうするつもり、って……副長、いい感じに酔いが回ってるみたいですね」
「ああん?こんなモン酔ったうちに入んねーよ」
「そんなこと言ったって頬が赤いですよ?」

「はいはい、ちょいと失礼しやーす」

バスッと、かたらと土方の間に座り込んだのは沖田だった。

「なーに、ふたりの世界作ってやがんでィ、死ね土方コノヤロー」
「あんだとォ?総悟、お前が死ねっ」
「やめてください、仲良くね?ほら、沖田隊長も一杯どうです?」
「つーか葉月、お前が飲め。イヤなら俺が無理やり飲ませてやらァ、ホレあーんしろ、あーん」

一升瓶の口をかたらに突きつける沖田。それを止める土方。

「やめろ総悟、それセクハラだからっ」
「セクハラァ〜?酒瓶の口を口にねじ込むことのどこがセクハラですかィ。ヤラシイ目で見るアンタのほうがよ〜っぽどセクシャルハラスメントですぜェ?」
「沖田隊長、知ってますか?飲酒の強要はアルコールハラスメントって言うんですよ」

しばらく三人でああだこうだ言い合っていると、遠くから一人の隊士が走ってきた。

「副長ォォォ!大変ですっ、事件ですよ、事件っ!」

青年の名は山崎退。真選組の監査役を担っている人物だ。密偵として情報収集、隠密活動はお手の物。御使いにも行ってくれる(パシリ)

「どーした、山崎。誰か酔っ払って事件でも起こしたかァ?」

私服でも帯刀できるのは警察だけ、庶民から見れば丸分かりだ。真選組は幕府の犬だの税金泥棒だの、売り言葉に買い言葉。酔っ払いは面倒しか起こさない。

「ゴリ…局長が人質に取られたんですっ、お妙の姐さんに…っ!」
「………で?」
「何でも貢ぎ物として、ハーゲンダッツと酒と料理を持ってこいって…」
「単なるタカリじゃねーかっ!…どーせアイツもいるんだろ?」
「万事屋の旦那、一家揃ってますね…」

万事屋とは昔、花見の席を巡ってもめたことがあった。
厄介事は二度とご免。かたらもいるし、今回は落ち着いて酒を楽しみたい、というのが土方の本音である。

「…アイツらに関わるとロクなことにならねェ…山崎、そこらの酒と料理持ってってやれ。オイ総悟、一番隊の下っ端一人呼んでこい。運ぶの手伝わせ…」
「あの、副長…沖田隊長とかたらさん…行っちゃいましたけど…」
「………どこへ?」





人質となった局長を助け出すため、沖田はかたらを連れて桜並木を歩いていく。

「場所を訊いておけばよかったですね…」

万事屋一行が公園のどの辺りにいるのか、さっぱり分からない。

「この道下ってりゃそのうち見つかるだろィ、旦那の銀髪頭が目印でさァ」
「桜の花に囲まれていると銀髪も目立ちませんよ?」
「つべこべ言わねーで、探しやがれィ……うぷっ、気持ちわる…」

急に口元を押さえる沖田。どうやら、かなり飲んでいたようだ。

「吐きそうですか?…ちょっと我慢してください、あっちの茂みで休みましょう」

「……って、沖田隊長…なんのつもりですか?」

茂みに入った途端、かたらは押し倒されていた。

「ククク…騙されてやんのー…、何ってキモチイイことするつもり」
「………っ」

ムギュッと服の上から片方の胸をもまれた。酔うと言葉のセクハラだけじゃ物足りないらしい。

「触り心地は良好…つーか結構おっきい…」

次にはふくらみの先端を人差し指でぐりぐりと押し撫でてくる。布越しでもイイところに当たって思わず「んっ」と吐息を漏らしてしまった。

「葉月って感度良さそう……あー、たまんねー…俺専用の肉○隷にしたい」
「あの、お巡りさん呼びますよ?」
「お巡りさん、俺」
「わたしもお巡りさんです」
「じゃ、何の問題もないだろィ…」
「仕方ないですね……実はわたし、」
「!?」

組み敷かれていたかたらが、一瞬で沖田の上にまたがっていた。

「寝技も得意分野なんです」





「アレ?副長、かたらさんがいますよ」

五段の重箱を抱えながら山崎が言う。見れば、桜並木沿いの芝生に座っているかたらと…

「!…葉月っ、勝手に俺から離れるんじゃねー…って総悟、どーした?」

かたらの膝枕を借りて、ぐったりと横になっている沖田がいた。

「酔いが回って寝てしまいました」
「ったく、弱ェくせに調子付いて飲むから……仕方ねェ」

土方は荷物持ちとして連れてきた隊士に沖田を背負わせ、戻るように指示を出す。それから酒瓶を手に取った。

「…俺と山崎で近藤さんを連れ戻しに行く。葉月、お前は戻ってろ」
「いいえ、わたしも副長と一緒に行きます」

かたらは土方から一升瓶をひとつ奪い取る。

「絶っ対、ダメだ」
「…どうしてですか?わたし、お妙さんと新八くんに会いたいです。それに万事屋の…」
「だからダメだっつってんだろっ」
「……?」

小首を傾げるかたら。理由を言わない土方に代わって、山崎が説明する。

「かたらさん、副長はかたらさんを万事屋の旦那に会わせたくないんですよ。実はね、副長と旦那は犬猿の仲で…」
「山崎、余計なこと言うんじゃねェ…なんにせよ、アイツにゴタゴタ言われんのは目に見えてんだ。葉月を連れてくわけには…」
「山崎さん、行きましょうか。案内お願いしますね」
「はいっ!」

スタスタと進んでいくかたらと山崎。

「っオイィィィ!ダメだって言ってんだろーがァァァ!」
「いいじゃないですか。犬猿の仲だと言うなら、わたしは副長補佐として敵情視察に行くまでですっ!」
「おま、ノリノリじゃねーかっ!」

あの夜の一件以来、かたらの様子が変わってきたのは明確だ。
少しだけわがままを言うようになった。それは心を許してくれた証拠と取っていいのか…


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