「わかった!わしが応援しちゃる!おまんの大切な人とやらを捜しちゃるき〜元気出すぜよ!…で、捜し人の名は何とゆうんじゃ?」
「坂田……坂田、銀時という名前だ」

師匠と死に別れ、独り戦に彷徨っていたとき坂本辰馬という男に出会った。

「ほうかほうか、銀時かぁ」
「白銀の髪で目立つ風貌をしている。噂では白夜叉と呼ばれているようだ」
「ふむふむ、白夜叉………」

辰馬と出会えなければ、銀兄に会えなかったかもしれない。

「白夜叉を知っているのか?」
「知っちゅうも何も………わしの仲間じゃき」
「………うそ」
「嘘じゃなか〜本当じゃ。……ほれほれ、噂をすれば何とやら」

銀兄と再会できたのも辰馬のおかげだと、今でも感謝している。

「……ぎ、ん…っ」
「どうやら捜し人は見つかったようじゃのう」

大声で豪快に笑う辰馬、静かに優しい眼差しで語る辰馬、そのどちらも大好きだった。

「銀時が故郷に残してきちゅう妹……ほりゃ、おまんのことじゃろ?」
「!………」
「たま〜に銀時は酔うと妹の自慢しちゅうよ。よく寝言でおまんの名を口にしちょった。…さっきもそうじゃ」

またひとり、大切な仲間であり兄と呼べる存在ができたことが嬉しかった。





「懐かしいだろう?…この微かな花の甘い香り、お前といえばこの匂いだ…」
「松陽先生が選んでくれた香油だから、…ずっと同じものをつけてたんだよね…」

戦の遠征に出ていた小太郎が拠点に戻った翌朝、誕生日の祝いにと香油『花の露』をくれた。痛んだ髪に馴染ませると、その懐かしい匂いに先生を想い、皆が楽しく過ごしていた頃を思い出す。

「お前ももう十六だ。年頃の娘らしく華やかに暮らすこともできたのに、よもや戦地に身を置くとはな…」
「ふふ、そういう楽しみは取っておくの。いつか…戦争が終わったら思う存分、女の子らしくするよ?」

昔と違う境遇。それでも心情に寄り添ってくれる人がいるから心強かった。弱音を吐く必要もなかった。

「…そうか…ならば俺も楽しみにしておこう。……ほら、綺麗になったぞ」

小太郎が嬉しそうに夕色の髪を撫で梳かし、その感覚に安心する自分がいる。今思えば小太郎に松陽先生を重ねていたのかもしれない…どこか雰囲気が似ているところがあったから。
記憶を失った私と再会しても、小太郎は昔と何ら変わることのない態度で接してくれた。いつも心配して気遣ってくれた。だから
こそ、記憶が戻った今こそ、小太郎に恩を返すべきだと思う。





「護るつもりが護られて…そんなことが何回もあって……思い知った」

銀兄を庇い背中に傷を負ったとき、すべてがはっきりとした。

「お前がここまで強くなったのは、…強くなろうと努力したのはよ……俺の隣に立ちたかったから、そうだろ?」

視界はぼやけていても、心の霧は晴れていく。

「自惚れてるって?…そうさせてんのはお前だろ。お前、俺のこと大好きだもんなぁー」

帰りを待つ約束も守れずに、男装して姿を偽り、ずっと銀兄を騙し続けてきたつもりでもその実、銀兄にはすべてお見通しだった。

「うん、…大好き…」
「……はいはい、わかってます。んな直球に言われると恥ずかしいだろ、俺が」

銀兄を追ってここまで来た理由だってそう、本当は口で言わなくたって分かっている。

「私ね……護られてばかりだったから、今度は…私が銀兄を助けて…護ってあげようって、…護りたいって思ってた…」
「そうか…」
「強くなれば…銀兄の傍に…近くにいられる……だから、私…っ」

それでも言葉で想いを伝えたかった。

「だって…わ、私の…帰る場所、は…」
「もういい、無理して喋んな。…おめーは強くなったよ。陰で何度も俺を助けてくれたじゃねーか。…言っとくけどな、全部気づいてたからね、俺は」
「……ほん、とに…?」
「ああ、嘘じゃねーよ」
「……そっか…」

今までの努力が報われ、何もかもが昇華したかのように思えた。そのくらい銀兄の言葉もその存在、すべてが私にとって大切でかけがえのないもの…だから記憶を無くしていても自然と銀兄に惹かれたんだと思う。今はそう確信している。





「かたら……わしが銀時をうらやましいと言うたこと、憶えちゅうがか?」
「んぅ…憶えてる…」

辰馬との別れの朝。一度見送ったつもりが、どうしても別れ難くて辰馬の胸に飛び込んだ。

「最後やき、理由ば教えちゃる」
「り、ゆう…?」
「…おまんはわしが心から惚れた女子じゃ…しかし、おまんの心は銀時が持っちゅう。わしが銀時を羨むんは、おまんの愛情を持っちゅうがやき…それが理由ちや」
「!……」
「じゃから、散々好きだ愛してると言うてきたのは、冗談のようで冗談じゃなかった訳やかぁ。これで仕舞いやき、今一度言わせてほしい…」

こんなときに、最後の最後に、愛の告白だなんて…

「かたら、おまんを愛しちゅう……返事はいらん、その言葉だけ受け取ってほしい…」
「…辰馬…っ」

でも、素直に嬉しかった。

「迷惑かけてすまんのう……最後の最後におまんを困らせるつもりはなかったがやき…」
「ち、違うの……うれしいんだよ?…こんな、私を…好きになってくれるんだもん…っ」
「惚れた女子が独り身じゃったら強引にもなっちょったろうが、……銀時がおらんかったら、わしゃあ本気でおまんを落としちゅうところじゃ」
「……」
「けんど、銀時がおらんかったら…おまんと出会うこともなかったろう…」

互いに同じ想いだったことも嬉しかった。

「私だって…銀兄がいなかったら、辰馬と出会えなかった…!」
「おお…わしらは銀時に感謝せんとならんのう…」
「うん…」

辰馬は私だけでなく銀兄にも、共に戦い歩んできた仲間にも、隔たりなく平等に愛を注いでいたと思う。故に慕われ、名残惜しみながらも皆が笑顔で辰馬の夢に声援を送った。今はもう夢が叶っただろうか…それともまだ夢半ばだろうか…





「かたら、…お前を奪おうと思えばいつでも奪えた……俺が何故そうしなかったかわかるか?」

晋助に組み敷かれても本気で抵抗できない自分がいる…そんな態度だから駄目なんだと幾ら己に言い聞かせても、病気みたいに同じことを繰り返してしまう。

「欲望に従って、奪って、壊して、…それが許されるとは思っちゃいねーよ…」

互いに惹かれ合おうとも、決して交わってはいけない…そんな存在を何と呼べばいいのだろう。

「ただ、いつ鎖が千切れるかわからねェ…檻を破るかわからねェ…この先、お前を傷つけちまうかもしれねェってことだ…」

晋助の言葉が胸に突き刺さる。追い込まれているのは私ではなかった…

「いいか…気をつけろ……俺に隙を見せるなよ…」

私が晋助を追い込んでいるのだ。

「特に…ふたりきりになったときはな…」

この曖昧な関係を断ち切るとき、私はどんな覚悟をして、何を犠牲にするだろう。
絆を失うことが怖いなら、それは未練というもので…だったらもう二度と会わないほうがいいのかもしれない。でも、それでも私は…





「そういやコレ、婚約お守りだったよな…」

互いにお揃いのお守りを見せる。これはふたりの婚約の証で、傍から見れば子供の頃の微笑ましい約束事だと思われるかもしれない。けれど、ふたりにとって本当に大切な絆と呼べるものだった。

「そう…結婚する日まで大事に持ってること」
「で、俺がお前を嫁にもらう。…っと」

ぎゅっと銀兄に抱きしめられて目頭が熱くなる。

「よし、結婚の日取りを決めるぞ」

この子供染みた約束に約束を重ねて…

「……えええっ!?」
「攘夷戦争もじきに終わる…終わるっつっても、血生臭い戦が終わるだけで、きっと…これからは別のやり方で戦っていくだろーけど…」

最終決戦を迎えても、必ず生き残ってみせる。

「もしそうだとしてもよ、…シアワセになる権利は誰にだってあんだよ」
「……」
「俺とお前で一緒になって…何かひとつでも形に残せたら…それが一番シアワセなんじゃねーの?」
「!……うん…そうだね…」

必ず生き抜いて幸せを掴んでみせる。そう望んでくれた先生と師匠のために、銀兄のために…そして自分のために。

「今年、…お前の誕生日でどーだ?」
「十月七日に結婚?」
「十七歳の誕生祝いによ」
「…へんなの。それじゃ銀兄がお祝い品みたいだよ?」
「別にそれでかまわねーよ。…とにかく、決まりな。約束の約束だ、いいな?」
「うん…」
「こっから先、悲観して…泣いたりしたら許さねーからな?」

もう何も怖くない。絶望を恐れはしない。ひとつの希望が胸にあるから…





「おい、どこへ行く……そっちは崖だぞ?」

攘夷戦争が終結しても、それは表向きの話…実際には新たな戦いがどころか未だ血生臭い戦いが続いていた。

「…慰み者にされるくらいなら、飛び降りて死にたいか?」

攘夷残党狩りという名目で天人が蔓延っていた。

「ククク…それも見ものだが、つまらない」

回収班の仲間も皆倒れ、自身も深手を負い、崖縁に立つ…このときは恐怖さえ微塵も感じなかった。死を前にして尚、希望を抱くかのように…ふっと口元が綻んだ。

「!……恐怖で頭がおかしくなったようだな…」

最後の最期まで、あきらめてはいけない。生きることを…生き抜くことを…

「ぅぐ…っ!?」

袂に忍ばせた切先で一人…

「きっ…キサマぁあああっ!!」

奪った短刀でもう一人…これで天人を全員仕留めた筈…だからもう、これでお仕舞い…
一瞬の浮遊感。その刹那、銀兄を想った。ただひとり銀兄だけを…


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