桜舞う風


真選組屯所、局長の所有する離れ座敷にて…
近藤局長に呼ばれて集まったのは副長とその補佐、そして一番隊隊長だった。いつもの顔触れで、かたらもその一員になっている。

「とっつぁんの粋な計らいで大江戸公園に観桜の宴を張ることになったぞ!かたらちゃんの歓迎会を兼ねての花見だ。…トシ、これ見積書」

土方は受け取った書面を広げた。

「あん?場所の確保も食事も酒も、向こうで手配してくれんのか…とっつぁんのことだ、何か裏があるかもしれねェ…まぁた将軍の御守とかじゃねーかァ?」
「なーにバカ言ってんですかィ。将軍様は毎年城内のしだれ桜で酒池肉林ですぜ?庶民の桜なんぞ天守閣から見下ろして終わりでさァ」

ゴホン、と近藤が咳払いをする。

「お前ら、上様は関係ないぞ今回は。とっつぁんはかたらちゃんのために張り切ってるのさ」

三人の視線がかたらに向かう。

「えっ……あの、恐縮です…っ」
「そうそう、かたらちゃん。とっつぁんから預かった物がある…」

近藤は奥の部屋から桐箱を取って、かたらの前に置いた。
中身を拝見すると着物の類のようだ。かたらの代わりに沖田が布を引っ張り出している。

「こいつァ上等品だ…質屋に入れたらかなりの金額になりますぜェ」
「人がもらったモンを売るんじゃねーよ」
「ったく、土方さんは冗談が通じなくて困りまさァ」
「いや、お前ならやりかねんだろ…」

桐箱には女子袴の一式が揃っていた。

「…お花見に合わせた色ですか、きれいですね…」

桜色の振袖長着、暗紅色の袴、八重桜の髪飾り。どれも仕立てが良く、見立ても良い。

「女性に似合いの服を送るとは、とっつぁんも男だな。俺もお妙さんに服をプレゼントしたことがあるが、サイズを間違えてしまってなぁ、そりゃ怒られたさぁー…まさかAカップだとは思わんかったものなぁー」
「それ服っつーか下着な。そりゃ怒られるわ」

また高価なものを頂いてしまったと、かたらは着物をたたんで片付ける。

「松平のおじさまには、後でお礼の電話をかけておきます」
「そうしてくれ、とっつぁんも喜ぶ。これで、めかし込んだかたらちゃんを見れるなら、花見も二倍三倍楽しくなるだろう」



話が終わり、土方とかたらは座敷を退室した。

「花見か…こりゃ皆浮かれちまうな…」
「みなさん、お花見好きなんですか?」

訊かれて振り向けば、松平公からのプレゼントを両腕で抱えているかたら。歩きづらそうだし、女が持つには大きい荷物だ。

「花も悪くねーが、酒だよ酒。武装警察なんかやってると大酒もできねーからな…局長より下は」

土方はヒョイッと桐箱を奪い取ると脇に抱えた。「すみません」とかたらが言う。

「皆揃ってバカ騒ぎできんのは年に二、三回…特に、屯所の外で飲める花見は格別だ。で、野郎共もピクニック気分ってワケさ」
「楽しそうですね。わたし、……お花見は久しぶりです」

一瞬、かたらが垣間見せた感情、悄然とした目色を土方は見逃さなかった。

「……葉月、花は嫌いか?」
「え?そんなことはないです。好きですよ、桜」

にっこりと笑う。
今回ばかりはしっかりと見抜ける。これは無理して作る笑顔だ…

「っ………そうかよ」

言って土方は渡り廊下を歩き出した。少し動揺してしまったことに、かたらは気づいただろうか?後ろから付いてくる気配はいつもと変わらない。

無理して笑うんじゃねーよ

そんな台詞を言ったところで何になる?また作り笑いの上塗りで、はぐらかされるに決まっている…
なら、どうすればいい…?何て声をかければいい…?

「土方副長、どこに行くんですか?部屋はこっちですよ」

かたらの呼びかけに土方はハッとして足を止める。廊下を曲がり損ねていた。

「…考え事でもしてたんですか?」

振り返ると大きな瞳に囚われる。

「副長、どうしたんです…?」

やわらかそうな唇が動く。

感情がおかしいのはこいつだけじゃない、俺もどこかイカレちまったらしい…
土方は眉間にしわを寄せ、片方の口角を吊り上げた。

「……気にすんな、何でもねーよ」

何故、こんなにも、かたらのことが気になるのか…自分の心に訊けば明白だった。

惹かれているのだ、葉月かたらに…


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