結局、要人暗殺事件は解決することなく真選組・見廻組共に警護の任を解かれ、隊士らは通常の職務に戻ることとなった。

「不甲斐ねェ…全くもって不甲斐ねェ…」

会議部屋にて土方は不機嫌な表情で煙草を燻らせる。その隣に座ったかたらと山崎は何も言えずに縮こまるしかない。

「まーまートシ、警護期間中にホシを挙げることはできなかったが捜査は続くんだ。そんなに気を落とすなって〜」
「近藤さんの言うとおりでさァ、土方さん。全隊員揃ったこっからが勝負ですぜィ」
「おお総悟、いいコト言った!そうだぞトシ、皆が一丸となって事に当たれば何れ解決するさ」

任務から開放された反動か、能天気な局長と一番隊隊長である。土方は青筋を浮かべ文句を押し殺した。

「…やることは山積みだ。まず山崎が集めた情報をもとに良からぬ計画を企てている連中を捕縛する…こいつは一番隊と十番隊に任せる。それから…」

一頻り今後の予定を話し近藤の了承を得る。明日の朝礼には皆に伝達、各隊それぞれの任務に付いてもらう。
そうと決まれば今日はお開き、久し振りにキャバクラにでも行くのだろう近藤はいそいそと部屋を出て行き、沖田も後に続いた。まだ座ったままの山崎だけが何か言いたげに土方を見る。

「ん?…どうした、何か意見でもあるか山崎」
「いえっ…その、副長……できれば、なんですけど…また情報収集にかたらさんをお借りしたいな〜…なんて、ダメですよね?イヤ分かってます!ダメだって分かってますっ!!」

その卑屈な態度に若干イライラするが、仕事に関して努力家なのは認めているから無下にはできない。

「…何か目星がついてんのか?」
「はい、一応…」
「何だ?言ってみろ」
「えっと、その…犯人は何か他の目的があって、それから目を逸らせるために要人暗殺事件を起こしたのかもしれない、と考えまして…だから闇取引関連を洗っていこうかと…武器とか薬とか、何か大掛かりな密輸の形跡があれば、犯人に繋がる手掛かりを掴めるかな…と思うんです」
「ま、事件と関係なくても密輸犯はしょっぴけるしな…」

土方はかたらに視線を向け、また山崎に戻す。かたらを山崎に預けるとなれば心配な点もある…何者かに追われ逃げる際にバナナの皮に素っ転んで気絶したとか、かたらのおかげで無事に済んだものの下手をすると捕まっていたかもしれない。これではかたらが山崎のボディーガードみたいなものだ。

「…少しの間だけなら葉月を貸してやる…が、二度とヘマすんじゃねェ…分かったな」
「は、はいいっ!ありがとうございます、副長!!かたらさん、また手伝ってもらうことになるけど…よろしくね!」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。がんばりましょうね、山崎さん!」



***



そんなこんなで山崎は二日間限定でかたらと共に情報収集に勤しんだ。
複数の闇取引場所を特定し、浪士風の客を装いつつ流行りの品や店の近況を聞き出したり、帳簿を盗み見たり、攘夷派が関与する取引を探った。そして掴んだ手掛かりが…最近、春雨経由で大量に密輸入された兵器があるらしい、ということだ。ある店の天人が言うには、大物の取引は春雨の幹部クラスが関わっている筈で、その兵器をどこの誰が買ったかは分からないそうだ。

宇宙海賊団・春雨…真選組にとってこれほど厄介な存在はないだろう。銀河系最大の犯罪シンジケートと言われる春雨がこの地球で猛威を振るっているのも確かで、時々巷で流行る得体の知れない薬品、怪しい薬物なんかは元を辿れば春雨が原料を密輸したものだったりする。
何が厄介かというと、その諸悪の根源は法で裁きたくても裁けない複雑な理由があることだ。春雨のトップ元老院と天導衆との間で結ばれた協定…所謂不可侵条約のために何があろうと介入できない。幕府は民が食い物にされても見てみぬ振りを続けるのみ…

それでも、春雨を裁くことはできずとも春雨から物を買い非合法薬物を売り捌く連中をしょっぴくことはできる。今まで真選組がやってきたことだった。だから今回も同じように捕まえなくてはならない。物が兵器だというなら尚更、買った組織の特定を急ぐ必要があるだろう。





夜、かたらが湯浴みを済ませ自室前の外廊下、縁側で休んでいると山崎がやってきた。山崎は隣に腰を下ろし、手土産らしき箱をかたらの横に置く。

「かたらさん、二日間お疲れ様。ありがとうだけじゃ足りない気がして…コレ和菓子なんだけど後で食べて…って寝る前に甘い物はナイか…ごめん、気が利かなくて」
「いえ、すごくうれしいです!わたしが和菓子好きだって前に話したこと、覚えていてくれたんですね…もう山崎さんてば気が利きまくりです!ありがとう…っ!!」

満面の笑顔を見せるかたらに思わずキュンッと心を射貫かれそうに、というか完全に射貫かれて山崎は頬を染める。恋人がいる相手を好きになってはダメだと、分かっていても心は正直で素直に喜んでしまう。こんなところを副長に見られたら恐ろしい目に遭いそうだ。

「本当、かたらさんに手伝ってもらえて助かったんだ。こんなに早く手掛かりを掴めるとは思わなかったし…あとは春雨から兵器を買った組織を特定して、もしそれが過激派攘夷だったら早めに手を打たなきゃならないし、要人暗殺事件との繋がりも定かじゃないから…まだまだ色々と探ることになりそうだけどさ」

これからが正念場、山崎はニッと笑って見せた。かたらが隣にいるだけで元気百倍になれる気がする。

「山崎さん…また、わたしに手伝えることがあったら何でも言ってください。副長補佐の合間に手伝いますから」
「もうっ、それじゃかたらさん働き過ぎで倒れちゃうよ?」
「ふふ…それが嫌なら、ちゃんと副長に許可をとってくださいね。わたし、待ってますから…!」

かたらが天然タラシだと前々から分かっていた…けれど、勘違いしてでもこの癒しの存在を感じていたい、できることなら独り占めしたい…そうは思っても、かたらの手には一輪の花がある。鮮やかな黄色の花弁が凛として可愛らしい、一見本物のように見えるが造られた花だ。

「…旦那にもらったその花、大事にしてるんだね。昔、かたらさんが好きだった花なんだよね」
「はい」
「そういえば、前に花言葉を知ってるか訊かれて調べたんだった。ちょっと待ってて…」

山崎は携帯電話を取り出しメモ帳を探る。カチカチと小さな操作音が鳴り、その指先を見守るかたらは何故かキョトンとしていた。それもその筈、山崎に花言葉を尋ねたことさえかたらは忘れていたのだ。

「あった!…ええと、…黄色の水仙の花言葉は…」

どうして忘れていた?

「…気高さ、感じやすい心…」

拭えぬ違和感の中、山崎の声が響く。

「…私の愛に応えて…私のもとへ帰って…それと…」

妙な胸騒ぎがして、かたらは黄水仙を見つめた。

「…もう一度、愛してほしい…だって」

その言葉を聞いた瞬間、ギュッと脳を掴まれたような感覚がして視界が霞んだ。

「何だか照れくさいよね、花言葉って……もしかして旦那がかたらさんにこの花を贈ったのって、そういう意味だったのかな?もう一度愛してほしい、って……アレ?かたら…さん……っ!?」

かたらの手が震え、指先から造花が滑り落ちる。

「う、ぅ……はぁ…っ……ああ、っ…!!」

何かが…脳内で何かが起こっている…何かが弾けようとしている…かたらは強烈な頭痛に襲われて呼吸を乱す。上手く息を吸えなくて、次第に意識が途切れ途切れになっていく…

「…あ…ぁ………」
「ちょっ、どうしたの!?かたらさんっ!かたらさんんんんん!!」

遠ざかる意識…それが途切れる刹那、誰かの声が聞こえた…



『許してくれ…君の精神を守るためには……』



「オイィィィ!山崎てめっ、葉月に何してやがんだァァァ!!」

倒れ掛かったかたらを咄嗟に支えた山崎だったが、そこへ丁度風呂上がりの土方が現れ、盛大に勘違いされてしまった。

「イヤ違います!違うんです!襲ってるとかじゃないんです副長!!かたらさんがっ…かたらさんが突然、気を失って…!!」
「なっ…発作か何かか!?息は……ある、大丈夫だ……オイ葉月、オイっ!目ェ覚ませ…っ!!」

土方はかたらを抱き寄せ、その蒼白い頬を叩きながら呼びかける。

「オイ葉月!葉月かたら!んなところで寝るんじゃねェェェ!!風邪引いちまうだろーがァァァ!!」
「副長ォ!落ち着いてくださいいっ!あまり揺さ振らないほうが…」
「っ、悪ィ……!!……葉月!?」

うっすらと、かたらの目蓋が開いた。

「葉月…俺が分かるか…?」

虚ろな瞳、反応はない…とにかく今は次の行動に移るべきだ。万が一ということもある。

「…山崎、俺は葉月を病院に連れて行く。お前は万事屋を呼んで来い…家にいなけりゃ捜し出せ、早急にな…!」
「は、はいっ!!」

言って立ち上がる山崎の裾を誰かが引き止めた。

「…まって……」

微かな声がかたらの唇から漏れた。

「まって……呼ばないで…ください……わたしは…大丈夫、ですから…」
「っ、んなこと言っても心配すんだろーが!」
「銀…時さんには……知らせないで…ください…」
「だったら、…せめて病院には連れてくぞ…いいな?」
「…いいえ…行きません……大丈夫…少し眠れば……大丈夫です…」
「っ、葉月……!」
「かたらさん……!」

心配そうに覗き込む土方と山崎に、かたらは告げた。

「副長……わたし…思い出したんです……過去を…すべてを……」

わたし…私は……


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