真選組一泊二日慰安旅行、二日目。
夕食時まで自由行動が許される本日、隊士たちはそれぞれ好きな場所に行き、まったりと時間を過ごす。もちろん、かたらも土方の補佐から解放され銀時たちと行動を共にしていた。
直射日光に弱い神楽のために屋内レジャープールを選び、男女別れて更衣室で着替えてから集合。うさぎ柄の浮輪を腕にるんるん気分でやってくる神楽、続いてお妙、その後ろにかたらが何やら恥ずかしそうに隠れている。

「葉月さん、減るものじゃないんだし堂々と胸を張っていいと思うんだけど?」
「かたら、姐御の言うとおりアル。そのナイスバディなビキニ姿、銀ちゃんに見せ付けてくるヨロシ!」
「わ、っ…!」

神楽に背中を押され、かたらはその勢いで銀時の前に立つ。しかし銀時は目を見開いたまま無言であった。

「あ、あの…昨日着ていた水着はダメになってしまったので、売店で新しいものを買ったんです……もしかして…変、ですか…?」

銀時の好みにそぐわなかったのかも…と視線を逸らすかたらの水着は至ってシンプルな白ビキニ。清楚でありながら色気もあるという相反する二面性…正にかたらそのものを表しているというか、かたらに相応しい逸品だと銀時は思った。

「いや、…その…よく似合ってんじゃね?…つーか似合ってる」
「本当に…?」
「マジでこれ以上ねェくれーに似合ってっから」
「…ならこの水着にしてよかったです」

言ってにっこり微笑むかたらに銀時だけでなく新八も悩殺された。かたらの背中に天使の羽が生えていてもおかしくはない…故に昨日の黒い水着より、白のほうが断然似合っていた。

「銀時さん、新八くん、今日は目一杯遊んで楽しみましょうね!」
「は、はいいっ!」
「オイぱっつぁん鼻血出てんぞ」
「え?そんなまさか〜妄想もしてないのに鼻血なんて出るわけ……アレ?何でェェェ!?」
「さっすが童貞」
「どっ、童貞とか言わなくてもいいでしょっ!?そこは思春期って大変だね!で済ませろやコラァァァ!!」

厠に駆け込む新八を見送って、かたらは小首を傾げつつ銀時を見た。身長差のせいもあって少し上目遣いで見つめてくるかたらに、銀時のあらゆるところが爆発しそうになる。

「思春期って大変なんですか?」
「まー…そうだな…」

思春期じゃなくても男には耐えねばならぬ時があった。



そんなこんなで午前中はゴリラの襲撃をかわしながら屋内プールを満喫し、フードコートで昼食を取って食休み。
さて午後の予定はどうしよう、となったところでお妙が気を利かせてか新八と神楽を連れて行ってしまった。何でもキャバクラ仲間にあげるお土産を選ぶとか、旅館のレストランで高級スイーツを食べたいらしい。なので銀時とかたらは必然的にふたりになった。

「…なんだか気を遣わせてしまいましたね」
「いいんじゃねーの?それともかたらは俺とデートしたくねェワケ?」
「…その訊ね方っていじわるです。したくないわけ…ないじゃないですか…っ…」

くるりとそっぽを向くかたらの耳が赤い。

「そーいう可愛い反応されたらもーっといじめたくなっちまうんだけど?」
「っ…やっぱり銀時さんて…いじわるです」
「何?嫌いになったぁ??」

自分でもウザイと思う口調になるが、面倒くさい男だという自覚は大いにあって性格上やめられない。そんな銀時に対抗する手を思いついたのか、かたらはくるっと向き直して無邪気に言った。

「いいえ、大好きです!」
「お、おう……」
「銀時さん、わたし行きたいところがあるんです」

かたらに連れられた先はすぐ隣の施設だった。

「ここは水着で入れる温泉だそうです。カップルに大人気、らしいですよ?」
「おお…」
「夏とはいえ屋内プールは体が冷えますから…ちょっと温まりたいなぁ、と思っていたんです。…嫌でしたか?」
「まー本音を言やァ温泉にゃ全裸で入りてーけど?ふたりっきりでェ」
「っ…それはまた次の機会にして…さ、早く行きましょう!」

照れながらもかたらがさりげなく手を繋いできて、銀時はドキリとする。色々な感情が入り混じり胸は苦しくなる一方で、次の機会があるならできるだけ早くその日が来てほしいと願ってしまう。もうラブホの風呂でいいからかたらと触れ合いたい…というか今すぐにでもかたらが欲しくて堪らなかった。

「少しぬるめなのが丁度いい感じですね」
「そーだな…」

あの夜以来、ずっと蛇の生殺し状態が続いていて欲求が満たされない…こうしてのんびり温泉に浸かっている今も、かたらの上気した横顔その唇に、首筋に、胸元を見て内心欲情しながら平常心を装っている。思春期だったら確実にアウトだろう。

「あっ……」
「ん?どーした?」
「いえ、…その……向こうにいるカップルが人目も憚らずに…」

見れば若い男女が肩を寄せ互いの唇をくっつけていた。それはそれは濃厚なキスシーン、そして女に触れる男の手付きがあやしい。

「おーおー見せ付けやがってェ、淫らな行為は禁止って知らねーの?あのバカップル。何?ケンカ売ってる?あのバカップル俺にケンカ売ってるぅ??」
「ぎ、銀時さん!落ち着いて…ほら、子供のしていることですし…ねっ?」
「子供だからって許されるワケねーだろォ、係員にチクって…」
「銀時さん!そんなにあのカップルがうらやましいなら…ここで、わたしと……しますか…?」
「ほわぁっ!?」

予想だにしないかたらの台詞に思わず素っ頓狂な声が出た。

「あなたが望むなら…あなたさえよければ…今ここで、キスしてもいいんですよ…?」
「なっ何言って…」
「だって、わたしだって欲求不満なんです…ずーっと我慢しているんです…っ」
「かたら、お前っ…」

そんな熱っぽい瞳で見つめられたら一溜まりもないというのに、かたらは遠慮なしに迫ってくる。

「銀時さんが我慢できないなら…わたしも我慢しません…だから」
「わわわ分かった!分かったから!今は我慢すっから挑発すんのやめてェ!頼むから…っ!」

こんな場所でバカップルの真似をする訳にはいかない。それに真選組の誰かに目撃される可能性だってあるのだ。銀時が焦って止めると、かたらはふふっと笑みをこぼした。

「安心してください、冗談ですから」
「ヘ……?」
「いつも銀時さんにいじわるされているので、ちょっと仕返ししてみました。…でも欲求不満で我慢してるのは本当ですよ」
「っ………」

何ともこそばゆい感覚を味わうと同時に、互いに同じ気持ちだと知って…それだけで気が安らいでいく。

「あの、…怒ってます…?」
「いーやその逆、うれしいっつーか……かたら、お前に言っておきてェことがある…」

それは唐突に思いついたことだった。

「?…何ですか?」
「十月七日」
「??」
「お前の誕生日が十月七日なんだけど」
「わたしの…誕生日ですか?」
「そ、今年の十月七日…空けといてくんねェ?」

記憶喪失のせいでピンと来ないのか、かたらは顎に手を当て考える仕草を見せた。

「…わかりました、休暇を申請しておきますね」
「おう」
「もしかして…わたしの誕生日を祝ってくれるんですか?でしたら銀時さんの誕生日も教えてもらわなくちゃ」
「俺ェ?俺のは十月七日になったら教えてやっから、それまでナイショな」
「そんな…ずるいです、教えてください!」
「ダーメ、お前の誕生日までナイショだから。…まァ、楽しみにしてろって」

過去に果たせなかった約束がある…その約束すら一からの遣り直しで臨まなくてはならなかった。それを面倒だとは一切思わず、むしろ心が弾み浮き立つようだ。
十月七日、かたらの誕生日。
銀時にとって二度目の、記憶を無くしたかたらにとっては初めての…恋人が次の段階へ進むための一大イベントを決行するつもりである。


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