「ぱっつぁん、クラゲって何食べて生きてんの?」
「えっと…海中のプランクトンとか、小魚だと…思います」
「じゃあ巨大クラゲって何食べて生きてんの?」
「それは……」
「まさか人間とか食べないよね?人喰いクラゲじゃないよね??」
「だっ、大丈夫ですよ!人喰いだったら行方不明者続出で問題になってるはずだし、ビーチも海水浴禁止になりますから」
「そ、そっか…なら安心だな、とりあえず刺激を与えねーように回避していこうぜ」

念のため救命胴衣を身につけて、神楽に櫂を漕ぐよう指示する。まず先にかたらを乗せてからだ。

『もし大きいクラゲを見かけたら避けてくださいね!毒を持っている可能性があるので』

「…イヤこれ襲われたら避けられねーだろ……こいつ、毒持ってんのか…?」

かたらの台詞を思い出し、土方は呆然として巨大なクラゲを見上げた。他の隊士も同じくその場に止まっている。かたらだけが泳いで土方の傍に寄った。

「副長、避難指示を出してください…わたしたちの足元、海中に触手が張り巡らされています…!」
「!!…こいつ、まさか俺たちを餌か何かと勘違いしてやがんのか…?」

巨大クラゲの傘は直径20mはある…おそらく触手の長さはその数倍で捕食範囲は広いだろう。人を食べると想定するならば、この辺り一帯、殆どの隊士が危険な状況に置かれている訳だ。
土方が近くの隊士にジェスチャーで退避命令を下すと、それを見て皆が早急に浜辺を目指し泳ぎ始めた。

「山崎、お前は総悟の船まで行って待機させとけ…アイツの船にバズーカが積んである、もしものときに役立つはずだ」
「はいっ!」

沖田に何故バズーカを持っていくのかと訊ねれば、人喰い鮫が出たときに使うと言っていた。大方、鮫を撃ち殺すついでに土方も抹殺しようとか物騒な考えがあったのだろう。それでも万一のときに武器として使えるなら文句は言うまい。

「副長、わたしたちは船に…」
「ああ…警戒しつつ退避する」

このまま何事もなくやり過ごせればいい…そう願うしかなかった。銀時たちの乗った和船が巨大クラゲを避けながら、こちらに向かっている。その姿に少し安堵して、そして巨大クラゲに何の動きもないことに少し油断していた…もっとも、警戒していたとしても防ぎようがなかった。

『!?』

突如、かたらと土方の足が何かに捕まれるや否や海中へと引きずり込まれ、次の瞬間には鞭が跳ねるかの如く海面から引き上げられた。二人の体に巻きついているもの…それは巨大クラゲの触手以外の何物でもない。

「かたらーーーっ!!」

目前の光景に銀時が叫ぶ。

「銀さん、危ないっ…!!」

新八が船から身を乗り出す銀時の腕を引っ張った直後、伸びた触手が空を掴んだ。透き通ったゼリー状のそれは獲物を捕らえ損ね海面へと飛沫を立て戻っていく。銀時たちが姿勢を低くしたまま辺りを見渡せば、既に他の隊士も触手によって縛り上げられた状況だった。

「かたら!オイ、かたらっ…目ェ開けてくれ…っ!!」
「トシィィィ!!しっかりしろ、トシィィィ!!」

銀時と近藤の呼びかけにぐったりと目を伏せていた二人が意識を取り戻す。

「ぎ…銀時…さん……」
「っ、頭が…痛ェ……葉月…大丈夫か…?」
「はい…なんとか……」

海水を飲まずに済んだのはいいが、軽く脳震盪を起こしたらしい。見下ろす視界はぼやけて定まらず、身動きも取れない…どう考えても助けてもらわなければこの状況を打破することは無理だろう。

「トシィ!!かたらちゃんん!!待ってろ、今助けるから…っ!!」
「ちょっ、近藤さんも待ってください!落ち着いて…!!」

櫂を持って取り乱す近藤を新八が止める。闇雲に動くのは危険過ぎる、二の舞になり兼ねないのだ。

「銀さん!木刀ならここにあるわ…これで葉月さんを助けてあげて!」

言いながらお妙はビーチパラソルを畳み、固定するために使っていた木刀を引き抜いて銀時に渡した。洞爺湖と刻まれた木刀は本来の持ち主の元に返る…人の大事な物を勝手に突っ立て棒にしたことをとやかく言っている暇はなかった。早く頭上に掲げられたかたらと土方、そして他の者を助けなければ…銀時は木刀を構えた。

「叩っ斬るしかねェ…!」
「でもっ、銀さんまで捕まったら…」
「心配すんな新八、俺もかたらも真選組の奴らも黙って食われるようなタマじゃねーよ…なァ局長さんよ」
「ああ万事屋…俺たちゃ伊達に死線を潜り抜けてきたわけじゃないさ」

銀時が言ったように、どうにか自力で脱出できないかと、もがくかたらの体を触手が更に締め上げていく。

「く…っ……!」

ぬるりとした感触がかたらの水着に侵入する。タンクトップの内側で蠢くそれは二つのふくらみを弄び、かたらは小さく悲鳴を上げた。

「ひ、っあぁ……っ!!」
「かたらっ!?」
「わたしは…大丈夫です、から…っ…先に土方副長を助け…て、っ…ぁ…あっ…!」
「バカヤロォォォ!先にお前を助けるに決まって…」
「銀時さんっ…お願い、します…っ…ふくちょ…をぉ…!!」
「かたら…っ…クソッ…!!」

かたらの懇願に迷いが生じ、躊躇する。

「銀ちゃん!かたらは私に任せるヨロシ!!」
「っ…神楽!かたらを頼むぜ…っ!!」

背後の神楽を信じて銀時は船縁を蹴り高く跳躍した。喊声を上げながら土方に巻きついた触手を叩き斬り、そのまま解放された土方と共に海面へと落ちていく。

「こぉの変態クラゲ野郎ォ!かたらを放すネェェェ!!」

ドォン、ドォン…ッ!!神楽の番傘(銃器)が火を吹き、かたらを捕らえた触手に命中する…しかし分断には至らず、攻撃を受けた触手は傷口から更に細い触手を伸ばしてかたらに襲い掛かった。

「んなっ!?どうして、何で私の銃じゃダメアルかっ!?」
「多分、一刀両断して切り離さなきゃダメなんだ…銀さんみたいに……刀…何か刃物があれば僕だって…!」
「新ちゃんコレ、誰の刀か分からないけれど使わせてもらいましょう!」

お妙が備え付けの収納ボックスから刀を見つけ出した。

「お妙さんん!それトシのです!俺に使わせてくださいっ、俺がかたらちゃんを助けます!そしてお妙さんを護りますからぁぁぁ!!」
「ちょっと近藤さんん!それ僕が使いますっ、僕がかたらさんを助けますから!姉上だって僕が護りますからァァァ!!」

刀を取り合う近藤と新八に神楽がキレる。

「オイお前らいい加減にしろヨ!それ私に寄越すネ!腑抜けた男どもが使うより私が使ったほうがいいアル!!」
「いいえ神楽ちゃん、私が使わせてもらうわ」

三人から刀を奪ってお妙は鞘を抜き捨てた。船の先へ立ち、刀を構えて息を整えるが…

「危ないっ、お妙さん…!!」

お妙を狙った触手が近藤の櫂に巻きついてギュルギュルと音を立てた。好機を見逃さず、お妙は咄嗟に刀を振るって触手を斬る。分断された触手は船内に落ちると、蜥蜴の尻尾みたいに跳ね回り、やがて氷が融けるかのように水溜りをつくった。

一方、浮上した銀時と土方は急いで船の側へと泳ぎ戻る。

「っ、万事屋…何で俺を先に助けやがった…!」
「仕方ねーだろ!かたらに頼まれなきゃテメーなんぞ助けるかボケェ!!」

言い合っている場合じゃない、かたらはまだ捕らわれたままだ。

「オイ神楽!何して…」
「銀ちゃん!私の銃、こいつに効かないネ!刀で斬らないとダメみたいアル!」
「だったら俺の刀、寄越してくんねーか」

利き手を上げる土方にお妙は抜き身の刀を投げて渡す。土方は柄を握り、かたらの元へと急いだ。

「万事屋、葉月を助けたあとは…」
「言われなくても分かってらァ…折角の慰安旅行に死人なんぞ出してたまるか」
「…仲間にでもなったような言い草だ」
「うるせェ、俺はっ…」
「分かってる、葉月のために…だろ」

そのかたらは今、危機的状況にあった。
周囲に散らばった触手がそれぞれに捕らえた獲物の隊士を放り投げ、素早い動きでかたらのほうへと集まっていく。

「オイおかしくねーか?何でかたらだけ集中的に狙われてんだ…?」
「何でって…そりゃあ葉月が……女、だから…か?」

かたらの足元に無数の触手が渦巻いていた。その内の数本がゆっくりと太腿を這い上がって、内股からその中心を探るように、尚且つ何か体液らしきものを塗りつけている…

「この化け物…まさか…」
「まさか……」

かたらを雌だと思ってる!?

「ふ、っ……ああぁ…っ…!!」

頬が見る見る紅潮して、かたらの口から苦しげな呻きが漏れた。


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