かたらが死んだ…
実感が湧かない。遺体を見てないからだ。
かたらが死んだ…?
信じられない。何かの間違いじゃないのか。
本当にかたらは死んだ?
見つからない。捜しても、捜しても、見つからない。
捜しても…どこにも…
丁度、攘夷派の会合を終えた桂が、銀時の病室を訪れていたときだった。
『桂さんっ…!回収班が天人に、襲撃されました…っ!』
だから逸早く知らせを聞くことができた。その回収班にかたらが入っていることも知った。
『…すみ…ません……っ、僕が弱い…から……僕の…せいで……』
現場に着いたのは夕刻。
両足の腱を切られた少年以外は皆、手遅れだった。
木々の隙間から西日が射し、光る一房を見つけた。紛れもなく、かたらの髪だった。握り取れば分かる。この手で幾度となく、触れてきたかたらの夕色…
崖に続く血痕、天人の死体、崖下の渓流。目眩に膝をつき、胃の中身を全部吐き出した。
『…いつか皆が、本当の幸いを手に入れる日が来るように…』
かたら…
松陽先生…
自分の心情とは裏腹に、記憶のふたりは微笑んでいた。最後に見た姿、表情のままで…
ぐるぐると脳裏を駆け巡る記憶に、思考が混乱して、わけがわからなかった。過去と、夢見た未来が幻想のように入り混じり、今を見失った。
正気を失っていた…
気がつけば、ひとり。いつの間にか、ひとりになっていた。
結局、仲間の元に戻らず、幼馴染に別れも告げなかった。現実を突きつけられるのが怖かった。ただ、記憶の中のかたらに寄り縋ることで生きていた。
春が終わり、夏が過ぎ、秋…
十月七日、かたらの十七歳の誕生日。
約束の日を迎えても、かたらはいない。ふたりが夫婦になると決めた日だった…
十月十日、銀時は二十歳になった。
どこへ行こうと、行った先にかたらはいない。
いつまでも、ひとり…
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