暗転


桜の開花を待たずして始まった、攘夷軍の総力戦。
この戦いに勝ち負けなど無用。抗う者たちが、国を憂う者たちが、まだこれだけ存在している。それを知らしめるための戦だった。

挙兵を見て、幕府側はどう動くのか。
期待も無用、十数年も攘夷戦争が続いた原因の一端は幕府にある。天人襲来以降、将軍は代々築き上げた体裁・権力を失わぬよう身内を大事にするあまり、他を切り捨ててきた。反発した侍たちを見捨て、宇宙からの外来者に屈し、傀儡に成り下がった。
そして今更、幕府が改心するはずもなく、動くはずもなく、傀儡政権の下…

天人による攘夷軍殲滅作戦が決行されることになった。





「空も地上も騒がしい…」

かたらは木陰に隠れつつ空を仰ぎ見た。今、桂部隊の救護班は会戦地から離れた山間に待機している。
曇天と共に無数の敵船が飛行していた。爆撃音も心なしかこちらに近づいている気がする。

バシャッ、バシャッ…!

小さな渓流を渡って仲間が走ってきた。

「っ…退避の準備を…!」

この少年もかたらと同じ、救護班の護衛を任されている一人だ。

「!…桂大隊長の命令が?」
「いえ、自分の判断ですっ…すぐそこまで…敵兵が来ています…っ」
「こんなところまで…!?」

少年が大きく頷く。かたらは振り向き、他の仲間に手合図を送った。
すぐさま少年たちが集まって話し合う。かたらを含め、たった六人の若い護衛組である。

「確かに…戦の音が近いな…」
「急いだほうがよさそうだ」
「よし、指定された場所へ救護班を退避させる」

万一のときは川下の村に退避することになっていた。

「…かたらさん、先導を頼めるか?」
「!…私が?…わかりました」
「お願いする。後方は任せてくれ」

村までの順路は頭に叩き込んであるから問題ない。
でも何故、直前になって後方から前方の護衛に回されたのか分からない。尋ねる雰囲気も暇もなかった。





護衛組は日暮れ前に無事、救護班を村まで退避させた。
事前に村長と契約し、村の一角どころか半分ほどの場所を確保しているので、しばらくの間は身を潜められる。
元々ここは鬼兵隊の潜伏場所、拠点のひとつ。高杉の配慮もあって、桂部隊・救護班が間借りすることができるのだ。

家屋の入り口に立って救護人たちを中へ見送っていると、一番年少、といってもかたらと同い年の少年が声を上げた。

「かたらさんっ!」
「どうしたの?」
「う…後ろの三人がっ…いないんです…っ」
「いない?……まさかっ…!」

かたらに先導を頼んだ理由が判明した。

「途中で離脱して…戦場へ向かったんだと思います」

最後の戦に参加したい気持ちは分かる。それを勝手だと怒ることもできないし、自分で決意したのなら、そうするべきかもしれない。皆、身命を賭して戦っているのに、ここで安全に待機しているのは心苦しいだろう。
かたら自身だって同じ気持ちだ。けれど…

「私たちの次なる任務は、この付近まで来た同志、怪我人を見つけ、ここまで案内すること…」

全部隊から見れば退避場所はあちこちにある。でも、鬼兵隊と桂部隊の者ならここに来るはずだ。

「…もしかしたら三人が怪我人を連れて戻ってくるかもしれないでしょ?」
「そうか、…そうかもしれない…!」
「これからが大変なんだから、私たちもがんばろう!ね?」
「!…はいっ」



闇夜に紛れ、鬼兵隊の者と協力して任務を遂行する。
撤退してきた怪我人はまだ少ない。もちろん、銀時も桂も、高杉も戻らない。仲間を率いて戦っているのだ。そう簡単に戻って来ないだろう。それこそ怪我でもしない限り…

「…みんな……」

どうか無事でいて…
かたらは祈る。見上げた空の雲間で一等星が輝いていた。


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