約束の約束


二月も下旬、本陣から東全部隊に召集の要請がきた。
天人側の動きを察知した上での出兵、敵に占拠されている古城を叩くつもりらしい。その旨が記された書面を座卓に置くと、桂は顔を上げた。
夜の会議部屋に、補佐のかたら、中隊長の銀時、小隊長四人が顔を突き合わせている。

「唐突感は否めないが、全部隊の兵を集めるとは…やはり…」
「要するにアレだろ。あっちが攘夷軍を一掃する気なら、その前にこっちから仕掛けてやろうってハナシだろ」

桂の懸念を遮って、銀時が発言する。

「……そうだとしても、果たしてそれでよいものかと…」
「本陣の大将が何考えてんのかは知らねーが、大同団結して戦うのはこれで最後になりそうだな…」
「あの…桂さん、文面からすると…出兵は要請であって、命令じゃないようですが…何故でしょう?」

小隊長の一人が疑問を投げかけてきた。桂は視線を移し小さく頷く。

「…召集といえど各々部隊にも都合があるからな。それに…最後、だからだろう。ここまで戦ってきた同志なら、強制なぞしなくとも必ず来ると踏んでいるのかもしれん…」
「そう、ですね…もしこれが最後となるのなら…皆、戦いたいに決まっています」

そう思い奮わせることが目的ならば強制とも言える。

「で、どーするよ?」
「どうするもこうするもあるまい、参戦する」

桂はキッパリと答えたが、心の中では「しかないだろう」と付け加えていた。部下の手前、ここで曖昧な態度や、これ以上不安を見せることはできなかった。

「…異を唱える者は?」
「異論ありません」

一人が声を上げると残りの者も賛同する。

「…では明日、皆を集めて話すとしよう」



小隊長たちを見送ったのち、桂はゆっくりと体をかたらに向き直した。

「かたら、お前に言わねばならんことがある」

そう言われて良い話だった例がない。

「な、なに…?」
「…お前が負傷してから今までうやむやにしていたが、…お前を俺の補佐から外すことに決めた」
「え…?」
「それと、前線で戦うことを禁ずる」
「……わかった、最前線で戦わなければいいんだよね?」
「お前には救護班の護衛に当たってもらう」
「え…それって……戦うなってこと…?」
「そうではない、護衛も危険な任務だぞ」

桂のあからさまな真意が見えて、かたらは俯く。

「………」
「お前は班長殿の誘いを断ったようだが、今からでも遅くない。医者を志すというのなら師弟関係を結ぶといい」

確かに以前、救護班に身を移してはどうかと誘いがあった。
けれど、かたらは弟子入りよりも何よりも、銀時の傍にいることを選んだ。それは素直な気持ちに従ったまでだ。

「小太郎、勝手に決めないで……もし最後だっていうなら、私だって皆と同じように戦うよ…」
「最後だとしたら尚更、お前を戦場に出すわけにはいかん」
「…そうやって…特別みたいに大事にしないで…」
「大事に想って何が悪い?お前が銀時を想うのと同じことだ。…兎も角、これは大隊長としての命令だ」
「……っ」

かたらは助けを求めて振り返るが、銀時の真顔に意を悟る。

「!……銀兄…?」
「………」
「もしかして……銀兄が小太郎に頼んだの…?」

危険な目に遭わせたくないから、戦わなくて済むよう仕向けたのでは?
銀時が答えないので桂に目を向ける。

「かたら、違うぞ…これは俺の独断であって、銀時の意思ではない」
「そう、わかった。…小太郎の、…大隊長の命令に従います…っ」

そう言い放った声があまりにも低くて、自分でも驚いた。偽りの男装をしていた頃がひどく懐かしい。男だったらよかったと、こんなときだけ羨ましく思う。
かたらは立ち上がると無言で部屋を飛び出した。


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