雪もやみ、日暮れ時。
一旦、高杉を客殿に送り届けてから、かたらと銀時は平屋に戻った。話し合いは明日。今夜は幼馴染揃って仲良く晩飯、という約束をしている。ふたりは今、会議室として空けてある部屋(桂とかたらの間の部屋)を整えていた。

先程の出来事のせいで銀時は不機嫌のまま、ジト目でかたらを見つめている。

「何が心配って…高杉とおめーがふたりっきりになるのが心配に決まってんだろ」
「…そんな心配することないのに」
「そもそも、おめーに隙があるのがいけねーんだ、わかってんのかぁ?オイ、かたらっ」

つーん、とそっぽを向いて火鉢の調整をするかたら。銀時のこめかみがピクリと動く。

「………っ」
「……銀兄は、…私のことも、晋助のことも…信じてないの?」

火箸で木炭をつつきながら、かたらが言う。

「あ゛?何言ってんだ?…おめーはともかく、アイツは信じられねーな」
「ふーん…」
「じゃあ訊くが、逆に…俺が他の女に誘惑されてたらどーするよ?」
「…私は銀兄を信じてる」
「心配じゃねーの?」
「…心配だけど…信じてるもん」

純粋なのも度が過ぎればただのバカ、世間知らずの箱入り娘もいいとこだ。

「あのなぁ…いくら信じてるっつっても、マチガイがあるかもしんねーだろ?不可抗力って言葉、知らねーのか?」
「不可抗力なら仕方ないでしょ?」
「…仕方ない、だと…?」

こめかみどころか頬までピキピキと青筋を立てていく。

「だって、不可抗力っていうのは防ぎようがないことでしょ?」

プチッとどこかの血管が切れると同時に、銀時はかたらを掴み上げ壁に押し付けた。

「仕方ないで済まされてたまるかっ!誰が傷つくと思ってんだコラァァァ!」
「う…」
「おめー自分が襲われても仕方ないで済ます気かっ!?俺が言いてーのはぁ、不可抗力以前のこと!」
「以前…?」
「不可抗力に陥る前に、対策をたててしっかり予防しとけってハナシだ!信じてるって気持ちだけじゃあ何の役にも立たねーからな!」
「…そんな、警戒しなくても…晋助は乱暴なこと…しない…絶対に」
「絶対、だと?…んなもんアイツのさじ加減ひとつでどうにでもなるわっ!あああもう、めんどくせーやつ!監禁して文字通りの箱入り娘にしてやろーかァァァ!」
「やぁ…っ!」

ガタンッと音がして桂が入ってきた。

「まったく、何を騒いでいるのだ?夫婦喧嘩は犬も食わんぞ」
『!………』

その後ろから給仕人が来て座卓に膳を置いていく。桂は礼を渡すと給仕人を見送った。

「……いつまでその格好を続けるつもりだ?…銀時、貴様…妹に狼藉をはたらくとは」
「誰が落花狼藉かっ、んなことするわけねーだろ!」

言って、かたらから手を放す。合意とはいえ、裏で落花狼藉じみた行為を強要している銀時には耳が痛い。

「高杉はまだか…」
「う、うん……あっ」

桂の背後にぬっと影ができたと思ったら、高杉が現れた。

「すまねェ、待たせちまったかァ?」
「いや丁度良かった、座ってくれ……ほら、かたらも銀時もぼさっと立ってないで座りなさいっ」
「ヅラァ、…土産だ」

高杉は風呂敷に包まれた酒瓶を手渡す。

「ヅラじゃない、ありがたく頂戴しよう。…実はこちらにも酒があるのだが…」

桂は奥の押入れから一升瓶を取り出した。それを見て酒好きの銀時が反応する。

「ちょっ、ヅラ、なにそれ。隠してたの?」
「隠すも何も、この酒は高杉に渡すよう坂本に頼まれていたものだぞ。貴様に教えたら最後、全部飲まれてしまうではないか」
「ククッ…坂本の奴、俺の好きな銘柄を覚えてやがったか…」
「…ああ見えて、マメな男だからな」



こうして始まった晩餐会も中盤に入ると、酒のせいかグチが多くなって、もうぐだぐだである。酒を飲まないかたらにとっては匂いだけでも酔ってしまうし、酔っ払った銀時の対応に疲れるだけだった。
なので、「もう眠くなっちゃったー」と誤魔化して、かたらは中座することにした。





「ふぅ……いささか酔ってしまった。…すまんが、俺は先に寝る…」

コトリ、と座卓にお猪口を置いて、桂は小さくあくびをした。

「酒に弱ェのは相変わらずだなァ、ヅラ」
「…酒なぞ久しいからな、仕方あるまい。…しかし、こうしてたまに飲むのも良いものだな…」
「まーなぁ、たまに飲むからうめーんだよなぁー酒ってぇのはぁー」
「…銀時、貴様も大分酔っているぞ?…程々にしておけよ……では…失礼しゅる…」

桂は立ち上がると、ふらつく足取りで隣の自室へ戻っていった。

「まだまだぁこれからだってぇのに…」

ぼやく銀時の顔も赤く、もうすっかり出来上がっている。
高杉は長火鉢の銅壺から湯煎中の徳利を抜き取って、銀時の器に注いでやった。

「…てめェも弱ェくせによく飲みやがる」
「うっせーよ…」

グイッと飲んで顔をしかめる。酒の熱さがのどに沁みた。
冷酒ならまだしも、熱燗となると酔いもひとしお回るのが速い。わかっているのに飲み続けてしまう。どちらが酒に強いか、なんて勝負をしている訳でもない。ただ、勝手に銀時が張り合っているだけだった。

「…銀時、てめ…赤くなったり青くなったり…楽しそうだなァオイ」
「だからぁーうっせーって言って…る……ぅ」

もはや喋るのもつらくなってきて口元を押さえる。気持ち悪い。

「目が据わってるぜェ……もう寝ろよ、てめェも…」
「………っ」

目の前の男が心底、小憎らしい。ククッと笑い、涼しい顔をして酒を口にしている。
桂という調和がなくなると、癇にさわることさえ受け流せない。高杉に対してつい、意地になってしまう。負けまいと、銀時は手酌で一杯あおいだ。

「オイ、無理はしねェこった。…酔い潰れたらそこで仕舞い」
「つぶれてませんんー、これからだってぇー言ってんだろがぁー…ヒック、もう一杯っ」
「…てめェで酌しろや」
「あーあーそうですかぁー、別におめーの酌なんかこっちから願い下げだしぃー酒も不味くなるっつーかぁ」

トントン。
襖をたたく音が銀時のグチを止めた。ふたり揃って入り口を見る。スッと開いて、ひょっこり顔を出したのはかたらだった。

「あれ?ふたりとも、まだ飲んでるの?」

訊きながら部屋に入ると、早々に銀時が絡む。

「ああ?飲んでちゃわりーのかぁ?つーかお前、どこ行ってた?どっか行ってただろ?あぁん?」
「うわぁ酔っ払い、酒臭い」
「うるせー、…んん?お前はいい匂い…」

かたらの髪を触ると、ひんやりと湿っている。

「ちょっ、銀兄、触らないでっ…お風呂に行ってただけだってば」
「んだと?おめ、ひとりで風呂場に行ったのか?危ねーだろオイ、覗かれたらどーすんだコラァ」
「覗かれないし、どうもしませんー」

かたらは銀時の手を払ってから、その腕を掴み上げる。

「明日は大事な話し合いなんだから、もう寝なさい!二日酔いなんてみっともないわよっ」
「おめーは母ちゃんかぁ?…オイ、ちょっ、引っ張んなってぇ…ヒック、吐くぞコラァ…」

しぶしぶと立ち上がり、大人しく付いていく銀時。
襖を閉める直前に、かたらは申し訳なさそうに高杉を見て言った。

「晋助、あとで布団敷くから、ちょっと待っててね」


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