「なんじゃあ、あのデカブツは…!」
「あんなモン、ただ図体がでけーだけだろ?」
と、高を括って立ち向かったが、一筋縄では行かない強敵だと知る。
基地の正面側でも巨体天人が鉤爪を振り回して暴れていた。
銀時と坂本は何とか一体倒したが、まだ同じ天人が二体残っている。早く倒さなければ負傷者が増える一方だ。脅威に怯え逃げ腰になるならまだしも、無鉄砲に突っ込んでいく同志もいる。坂本は離れるように注意を促した。
「銀時、おんしゃ囮になってくれんかの〜」
「んだよ、傷だらけになれっての?さっきのですでに傷だらけだよ俺ァ」
「アッハッハッ、男の傷は勲章やき女子にモテるろう」
「モテるわけねーだろ、熊に襲われた証にしかなんねーから。…お、いいモンめっけ」
銀時は地に伏せる者の武器を拝借する。
「おお、鎖鎌じゃの〜。よし銀時、行き〜や!」
「おうよっ!」
鎌を持ち、柄尻に付いた鎖文銅を振り回す。遠心力を利用して思いっきり投げた。
「おんし、どこに投げちゅう!危ないやか〜!」
鎖の文銅は敵に向かうどころか味方をかすめ、地面の土をえぐっていた。
「……そういや俺、こーいうの扱ったことなかったわ」
さも得意げに投げた自分が恥ずかしくなって、銀時は鎖鎌を坂本に渡した。
「わしもダメじゃき、…誰か扱える者はおらんかぁ〜!」
「…俺がやろう」
『!…弓之助っ』
人だかりを掻き分けてやってきたのは頼もしい旧友たちだった。
「ヅラに高杉!」
「ヅラじゃない、皆で力を合わせれば何てことはない」
「手ェ貸してやるぜ、銀時」
「アッハッハッ、頼もしい限りじゃあ」
かたらは坂本から鎖鎌を譲り受けると前へ出る。
「あいつの右腕を止める。その隙に攻撃を…」
銀時、桂、高杉は頷き、刀を構え移動していく。
「頼むぜよ、弓之助!」
「辰馬は俺の傍にいてくれ」
「何を言う、こがなときに愛の告白かえ?」
「違う、力を貸してほしいんだ!…見てればわかる」
かたらは鎖文銅を回し、宣言通りに巨体の右手首に巻きつけた。ギンッと鎖を引き牽制をかけるが、かたらの軽い体では引き止められる訳もない。
「イカン、弓之助っ!」
すかさず坂本が背後から腕を回して一緒に鎖を引く。ギリギリと鎖が鳴り不安がよぎる。しかし、千切れる前に勝負はついた。
ドスンと呆気なく巨体が崩れる。銀時たちが素早く急所を突き、倒したのだ。
「こうなると、弱い者イジメじゃのう…」
「強いからこうするしかないんだろ?…とにかく、あと一体だ」
残る一体は怒り狂うように暴れていた。
「皆、引けっ!離れろォォォ!!」
桂が同志に呼びかける。同じように銀時と高杉も仲間を散らしていった。
「辰馬、準備はいいか?」
「おうっ!任しときぃ!」
ビュン…!
鎖文銅を巻きつけたまではよかった。
『!?』
ふたりは想定外に驚く。巨体は鎖を引いて抵抗するどころか、一直線にかたらたちに向かってきたのだ。
「弓之助!一旦退け…っ」
坂本が声をかけるより早く、かたらは棒手裏剣を投げる。気休めにしかならないが、目だけでも潰しておこうと思った。
それは惜しくも片目しか命中せず、敵は目前、一撃が振り下ろされる。
シャッ…!
間一髪、坂本はかたらを抱いて攻撃を避けたが、その拍子に転び、次の鉤爪がふたりに迫った。
ガキィン!
銀時の刀が鉤爪を止めた。
「くっ…、おめーら早く逃げろ…!」
かばったものが新たな標的となるのは目に見えている。銀時にもう片方の鉤爪が襲いかかろうとしていた。
「っ……」
寸前、かたらは身を乗り出して銀時を突き飛ばす。
「!?…お前…っ」
鉤爪が小さな背中を真横にえぐっていった。
のにもかかわらず、かたらは倒れもせず身をひるがえし、小太刀を巨体の腕に突き刺した。
ザシュッ!
かたらに続いて巨体天人を貫く刃が数本あった。もちろん坂本、桂、高杉の刃である。
敵が事切れたのを見計らって皆、一斉に刀を引き抜いた。
耳をつんざく周りの歓声に銀時はふらりと立ち上がる。
「弓之助っ!おまん、背中が大変なことになっちゅうぞ!早う手当てを」
「平気だ、こんなものかすり傷……坂田、大丈夫だったか?」
かたらは近づいてきた銀時に声をかけた。でも、返ってきたのは言葉なんかじゃない。
バシッ…!
平手打ちだった。
「銀時!何をしゆうがか!」
「銀時っ、叩くとは何事だ!」
非難の声が飛んでも無視。銀時の表情は怒りに満ちている。
「大丈夫だったか?…バカにすんのもいい加減にしろよ…」
かたらは俯いたまま顔を上げることができなかった。視界がにじみ涙がこぼれたかも知れない。それすらよくわからない。
「オイ…聞いてんのかコラ」
怒りに任せて胸倉を掴もうとする銀時を桂が抑えとどめる。
「やめろ銀時、今はそんなことをしている場合ではないっ」
「うるせーよ」
「銀時、落ち着け!弓之助の手当てが先ぜよ」
もうかたらには言い合う皆の声も聞こえていなかった。膝が震え、それが全身に回り、血の気が引いていく。にじんだ視界が白くなっていく。
フッと意識が途切れ、かたらは崩れるように倒れた。
「バカが…本当に命張りやがって…」
高杉は咄嗟に抱きとめて、かたらの背中を確認する。
爪痕残る羽織をめくり上げて驚いた。忍装束の殆どが赤黒く染まり、布の裂け目からは血があふれ出ている。
「ヅラ、てめェんとこの救護班はどこだ?なんならこっちで引き取ってもかまわねェがよ」
早くしないと手遅れになる。それほどの出血量だった。少しでも楽になるようにと、かたらの鎖頭巾と口当て布を取り外す。顔はすでに蒼白だ。
ザッと銀時が傍に寄ってきた。
「そいつに触んじゃねーよ…俺が連れてく」
「だったら早く背中貸せや、バカ銀時が…っ」
かたらを銀時に背負わせて、止血も兼ねてふたりの体を固定しなければならない。
桂は自分の羽織を脱ぎ、破いて巻きつけていった。本当は無闇に動かしたくないが、幸いにも今回は救護班を近場に待機させている。そこに辿り着くまでどうにか耐えてほしい。
「よし銀時、野営場所はわかるな?慎重に走れよ…負担をかけるな、いいか?」
「言われなくてもわかってらぁ!」
銀時はしっかりとかたらを背に抱えて走り出した。
「坂本、銀時だけでは心配だ。すまないが付いていってやってくれ」
「相承知した!大隊長、すまんがここの処理は頼むぜよ」
「気にするな、かたらと銀時を頼む」
銀時を追って坂本も去っていく。
残されたふたりには一部隊の大隊長として、鬼兵隊の頭首として、まだやるべき仕事があった。
「かたらの無事を祈ろう…」
「ああ…」
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