約束の時が訪れて、桂と坂本は半年振りに再会した。

「坂本、久し振りだな…元気にしていたか?」
「おお〜ヅラ、まっこと久し振りじゃの〜!わしゃ元気ぜよ。…おまんは少し痩せたようじゃ」
「ヅラじゃない、桂だ。…少々疲れただけだ、案ずるな」

相変わらずの台詞も力なく、桂はやつれて見える。
かたらにとって二年半振りに会う桂もまた、銀時や高杉と同じく大人へと成長していた。といっても元々線が細いのと端整な顔立ちのせいで中性的な外見なのは変わらなかったが、少女のような可憐さが抜けて男らしくなっていた。
良い意味での優男と言えるだろう。

「ん?…後ろの者は誰だ?」

じろじろと見ていたので悪い印象を与えてしまったかもしれない。かたらは視線を下げた。

「わしの補佐役、藤咲弓之助じゃ。おまんと入れ替わりに仲間になったきに、よろしく頼むぜよ」
「どうぞ弓之助とお呼び下さい」

会釈すると桂はふっと微笑んだ。

「うむ、こちらこそよろしく頼む」

畳に敷かれた座布団にそれぞれ座り、向かい合う坂本と桂。双方神妙な面持ちをしている。
かたらは固唾を呑んで静かに見守った。

「北は酷い戦だった。土地欲しさに天人が勢力を拡げ、多くの者が惨い死に方を強いられた。大隊長も同じく…見せしめに、死して尚陵辱された…。部隊も敗退し、こうして俺も帰ったという訳だ…」
「…兄弟共に、同じ死に方をしちゅうがか…」
「すまない…」
「おまんが謝る必要がどこにあるが?わしゃあ、おまんだけでも無事に戻ってくれただけで嬉しいぜよ」

坂本の言葉を噛み締めるように桂は一度俯いて、顔を上げた。

「…拠点に戻る前にお前に話しておきたいことがある。大隊長からの遺言だ…」

坂本は黙って頷く。

「夢追わぬは一生の後悔を背負う」
「!」
「己の信念を貫き、確固不抜の精神を持って成し遂げよ」

桂は一言一句丁寧に述べた。

「…これが、お前に伝えろと命を受けた言葉だ」
「確かに受け取っちゅう、ありがとう…」

今度は坂本が桂の言葉、大隊長の遺言を噛み締める。
夢を追わず一生後悔するくらいなら、夢を追って一生覚悟を背負ったほうがいい。自分らしく生きているつもりでも、この戦の中にいれば自分を殺しているも同然なのだ。
仲間と違う道を、自分の信じた道を選ぶことに何を躊躇うのか。仲間を見捨てるのではなく、仲間を助けるために信念を貫ければ、それは本望ではないか。

「坂本、俺が大隊長の後を継ぐ。……異論はないか?」
「ない、ある訳なかろうて。おまんが覚悟を決めとるんじゃ、わしが四の五の言うても仕方ないことやき」
「そうか…。ならば貴様も覚悟とやらを決めることだ」
「迷いは無うなったけんども、ひとつ心残りがあるちや…」
「?……心残り、とは何だ?」

訊かれて坂本はかたらの肩に手をのせた。





坂本によって呆気なく正体を明かされたかたらは事の経緯を桂に説明することになった。
桂は最初に驚きはしたものの、冷静に話を聞いてくれた。

「………事情は分かった。…坂本、すまないが席を外してもらえんか…」
「相承知した。わしゃ〜ちっくと行ってきゆう…弓之助、後は任せた」

ぱたりと襖が閉じられると部屋にふたりきり。桂はかたらの手前に座り直した。
じっと見つめられ沈黙が続く。

「………あの、…小太郎…?」
「……お前の…本当の姿を見せてほしい」
「!………」

口当て布はすでに外している。桂が望むのはきっと夕色の髪のことだろう。
かたらは俯いてゆっくりと頭部の留め具を外し、黒髪のかつらを脱いだ。地毛をまとめている紐を解き、手櫛で軽く整える。

「かたら……本当にかたらなのか…!」
「小太郎……私は…かたらだよ…!」
「かたら…っ」

感極まって桂はかたらを抱きしめた。
互いに、こうやって生きて再会できたのは奇跡と言っても過言ではない。

「……大きくなったな、かたら…」
「まだまだ、小さいけどね……小太郎も立派になって、男前が上がったね…」
「ふふ、もう愛らしいとは言わせんぞ?」
「言わないよ…約束はできないけど」

ふと、桂の横にまとめた髪束がかたらの頬をくすぐった。
意外にも昔と変わらず艶やかな黒髪で、微かに髪油の香りがする。身だしなみに手を抜かないのも桂らしい一面だ。
一方、かたらの地毛は痛んで悲しいことになっている。それでも桂は黙ってかたらの髪を撫でていた。

「辛かっただろう……よく耐えてここまで来た…」
「…つらいのは私だけじゃないから…」
「辛いのは皆同じ…か…」

言い終わって桂は身を離す。かたらはおずおずと視線を向けた。

「……小太郎は…怒ってない…?」
「今更何を怒れと言うのだ。…お前の身に起きた事を思えば、こうなるのも致し方あるまい」
「……そっか…」
「あ、訂正させてもらうぞ。お前の返答によっては怒るかもしれん」
「う……」
「正直、坂本がお前のことを話さなければ…俺はお前をかたらだと気づかずに過ごしていただろう。もし…坂本が話さなかった場合、お前は俺をも騙すつもりだったのか?」

わからない、そう答えようとしたが声が出ない。騙す、という言葉が胸に突き刺さったからだ。

「かたら……何故、銀時に本当のことを話さない…?」
「………っ」
「晋助と俺に話せて、銀時には話せんか……やはり、お前にとって銀時は特別なのだな…」
「…小太郎…」
「昔と変わらぬ姿で……男の姿ではなく、女として銀時に会いたいのだろう?」
「!……どうして…私の気持ち、わかっちゃうの…?小太郎も…晋助も…」
「お前のことなら何だってわかるさ…」

桂はふわりと微笑んだ。

「…素直に話したとして、銀時がお前のことを嫌いになる筈がなかろう。…お前の心根が変わらぬ限り、どんな姿をしていようとお前はお前、そうだろう?かたら」
「ん……そうだよね。…わたしは私、かたらも…弓之助も…私なんだよね」

でも今更、どんな顔をして正体を明かせというのか。

「今すぐに、とは言わぬ。お前の時機を見て話せば良いだろう」

心を読まれてかたらは苦笑した。


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