先日の戦はいつもの小競合いより中規模な戦いだった。
勝ち戦と言われてはいるが、正直運が良かっただけでもある。天人側が武力行使で兵器を出してくれば、こちらに勝ち目などない。どうやら向こうの権力者も荒立って仕掛けられない理由があるらしい。

兎にも角にも、攘夷側はしばらく休戦とするお達しが出た。
休戦とはこちらから襲撃しないことであって、あちらから襲撃されたら再戦という訳だ。
それを踏まえて、傷を癒せ、鍛錬を怠るな、次の戦いに備えておけ、と言っていた本人が丸一日帰ってこない。

坂本中隊長殿が昨日の昼過ぎに「ちっくと行ってくるきに」と拠点を出ていって、今日の昼過ぎである。
今朝、銀時に訊けば「女んとこ泊まってんだろ」と返された。
それならそうと、ちゃんと理由を言ってから出かけてほしいものだった。

「……辰馬の奴、一体いつ帰ってくるんだ?」

かたらはややイラつきながら、中庭の鍛練場にいた銀時に声をかけた。

「あ?知らねーよ。今夜帰んなかったら明日の昼じゃねーの?…つーかさ、お前あいつの補佐だろ。そんぐれぇ把握しとけ」
「逃げるように出ていったほうが悪い。…まったく、女に会いに行くなら正直に言えばいいものを…」
「まぁ、女っつっても遊郭の女だけどな」
「そうか、遊郭の……遊郭の……?遊郭のっ!?」
「……アレお前、知らなかったっけ?」

そういえば、再会したときに遊郭通いがどうとか言ってたような気がする。

「ふーん…遊郭かー…遊びに行ってるワケだ…ふーん」
「いいじゃねーか別によォ。男ってェのは酒と女抱くことしか楽しみがねーモンなの。つーかお前も男だろ?そこんとこわかってやれって」
「………」
「ん?…ああ、童貞にゃわからんハナシだったな。ゴメンネ」

ニヤッと馬鹿にしてる笑みを見て、かたらは怒りを抑えた。

「………だっ、誰が童貞だって?」
「アレェー?違うのォー?」

小憎たらしい一面を見れるのは弓之助の特権かもしれない。

「…俺だってなぁ経験はあるからな。言っておくが、断じて!童貞じゃない」
「何か強調してんのが怪しーんだけど。…ま、いいや」

銀時は興味なさ気に視線を逸らした。

「なあ……そういうあんたは…遊びに行かないのか?」
「俺ァ興味ねーんだわ、女には」
「………女には?じゃあ男に」
「ちっげーよ!そこらの女にゃ興味ないって言ってんだよ」
「ふーん。…まあ、どーでもいいけど」

かたらも真似して興味なさ気に視線を逸らした。
本心はどうでもいい訳じゃない。遊郭に遊びに行くようならしばき倒すところだ。心の中で。
これ以上、銀時と話していても仕方ない。かたらは部屋に戻ろうと背を向けた。

「オイ、弓之助!…暇なら付き合え」

銀時が言いながら竹刀を投げてきたので、パシッと受け取る。

「俺とお前の親善試合といこうや」

いいだろう。かたらは柄を持ち直してゆっくりと構えて見せた。

「一手ご指南願えますか?白夜叉殿」

やんわりと挑発する。二年前より遥かに強くなったことを証明してやりたかった。



「すげぇ…!あのチビ強いじゃねーか。坂田さんと互角に戦ってやがる…」
「互角?馬鹿言っちゃいけねェよ!白夜叉が手加減してるに決まってんだろ!」
「それでも、すごいですよっ!確かに体の大きさで力負けするけど、あの子余裕で食らいついてる…!」
「ところであのチビ誰だ?」
「あいつァ、坂本さんが連れてきた子だよ」
「おれ知ってる!こないだの戦のとき、危なかったとこをあの子に助けてもらったぜ」

鍛練場には野次馬が集まっていた。
皆、銀時とかたらの手合わせを見守っていた。というか釘付けになっていた。

「く…っ」

流れる汗も拭えずに、かたらは竹刀を握り直す。
達人同士の試合は一瞬で勝負がつくとはよく言ったものだ。勝負がつかないのは己の未熟さ故。
かたらは最初から本気で勝負を挑んでいった。それに銀時も答えてくれた。睨みあっては打ち、その繰り返し。
正直、肉体よりも精神的な消耗が激しい。一瞬でも気を抜けば終わりだ。

バシッ!
パァン!

竹刀のぶつかる音が続く。
受けては返し、突いては払われる。それは永遠に続くかと思われたが、ついに終わりが訪れた。
銀時の攻撃を受け止めたかたらの竹刀が…

「!……っ」

バリバリと音を立てて割れていく。

「俺の勝ちィ」

銀時の目が口がニヤリといやらしく笑う。それを見てかたらも目元に笑みを浮かべた。

「!!」

逆転の一瞬。

かたらは折れた竹刀を手放すと同時に身を屈める。
両手で銀時の右腕を掴み、脇に肩、胸元に背中を入れて力いっぱい投げた。

「んな……っ!?」

銀時が宙を飛んだ。
かたらの背負い投げである。ドスッと地面に叩きつけられた銀時はそのまま動かなくなった。

「俺の勝ちだよ。白夜叉殿」
「て、てめ……きたねェ…ぞ」

かたらは方膝をついて銀時に手を差し出した。

「汚い?…だったら手加減しなければいいだろ?」

観戦していた志士たちがどよめき騒ぎ出した。
やっぱり手加減してたんだ、それでもすごい、と意見と歓声が飛び交う。

「おめーら、見てんじゃねーぞ!金取んぞコラァァァ!!」

銀時はシッシッと野次馬を解散させた。
かたらの手を借りて上体を起こし、背中をさする。

「イテテ…あ〜あ、背中打撲だよコレ。どう責任取ってくれんのコレ」
「くふっ……」
「あ゛?何笑ってんだよ、誰のせいでこうなったと……アレ?鼻血出てる?」

かたらは懐から手巾を出して銀時の鼻に押しつけた。

「一度でいいから白夜叉と手合わせしてみたかったんだ。あんたの噂はよく耳にしたからな」
「……噂ねェー…」

さも嬉しくないように銀時は声を出す。

「ご指南ありがとうございました。白夜叉殿」
「…白夜叉じゃねーよ。ちゃんと名前で呼べってんだ」
「坂田殿?坂田さん?坂田と呼び捨てでもいいのか?」
「何で苗字限定なんだよ、そこは名前でいいだろが。空気読めっつーの」
「わかった。坂田でいいや」
「ちょ人の話聞いてるゥー?」

偽りの姿で、銀時と呼ぶのは嫌だった。

「坂田、ありがとう。久し振りに楽しかった」
「チッ、かわいくねーな。おめーはよォ」

いつか名前で呼べるそのときまで、楽しみは取っておきたい。

「もっと仲良くなったら下の名前で呼んでやるよ」
「おめー何様ァ!?年下がナマ言ってんじゃねーぞコラァ」

弓之助としてなかなか良い関係をつくれそうだと、かたらは口当て布の下で微笑んだ。


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