白への憧憬


ザシュッ!
ブシャアアア……

肉を貫き、血が吹き出る。その繰り返し。
かたらは羽織をなびかせて両手に持った小刀を敵に振るっていった。
素早く敵の懐に入り、急所を確実に突いていく。切先を首筋に、心臓に一突きすればそれで終わりだ。なるべく敵の攻撃を刀で受けるのは避け、身を翻してかわす。刃の消耗を抑えるにはこの戦い方が一番よかった。

周りを粗方片付けて、かたらは前線へと足を向ける。
途中、危うい同志を助けながら進んでいく。前線に近づけば近づく程、同盟を結んでいる様々な部隊が入り混じって共に戦っていた。特に強い者が前を切り開いている。
かたらは邪魔にならぬよう、飛び道具で援護した。

シュッ!
ヒュン……

棒手裏剣の先端が天人たちに突き刺さる。それは致命傷にならなくとも敵の動きを止めることができる。
ひとりの男がかたらの仕込んだ隙を利用して、次々に敵を倒していった。男は一瞬だけ振り返り、刀の切先をクイッと上に向けて再び前進していく。
ありがとう、という意味なのはわかるが、かたらはその男の顔に見覚えがあるような気がした。
男は西洋風の戦装束を翻して敵を薙ぎ払っている。顔を近くで見てみたい、そう思ったが、かたらにとっては一刻も早く銀時と坂本に合流しなければならなかった。

キィンッ!

天人の攻撃を右の小刀で受け止めて、不味いと思ったらもう遅い。

「く……っ!」

透かさず左腕の籠手で支えたが、パキッと乾いた音がして刀が折れた。
次の一撃を間一髪でかわし、地に伏せている仲間の刀を握り、引き抜きざまに斬りつける。敵がよろけたところを足払いで転倒させ、首を一太刀した。
息つく暇もなく顔を上げると、白く目立つものが視界の隅に入る。

白い夜叉。
白銀の髪をふわりと弾ませて、白い羽織を血に染めている。勇ましく戦う姿は噂通りであった。
銀時から少し離れて坂本も一緒に戦っている。前線とあって敵の天人も強そうな者ばかりだった。

シュッ!

空気を切り裂いて飛ぶ棒手裏剣。
数はもうそれほど残っていない。かたらは無駄撃ちしないよう正確に狙いを定めて投げていく。
急所を外れた敵は銀時たちが仕留めてくれる。血塗られた共同作業でも、嬉しさを感じずにはいられない。

程なくして、天人たちが引き下がっていく様子が見受けられた。

「坂本さんっ、天人が退却していきます!追撃は…っ」
「おまんは作戦の何を聞いちょったがか!追撃はせん!………」

蛮声が止み、皆が息を整えるのを見計らって坂本も伝令を出す。

「戦勝じゃ!これにて作戦終了とする!各班速やかに戦場の処置に入るよう伝えや〜!」

坂本の言葉に同志たちは口々に歓喜の声をあげた。
向こう側が先に撤退したということは、今回は勝ち戦という訳だ。かたらは喜びもそこそこにして、負傷者の手当てを手伝うべく足を進ませた。
軽く一回り見渡すと、ちらりと銀時の白が目に付く。銀時も坂本も怪我はなさそうだ。
かたらがホッとしたそのとき、

「!!」

銀時の背後にゆらりと影が立ち上がった。
ふたりとも周りの歓声で気づいていない。獣型の天人が武器を構え、今まさに振り下ろさんとする。

ドシュッ!!

鈍い音がして倒れたのは天人だった。
かたらは叫ぶより早く、天人の心臓目がけて小刀を投げていた。

『……っ!?』

銀時と坂本は刀を構え後ろに振り返ると、倒れた敵に目を見張った。かたらの投げた小刀は見事に命中して、敵の甲冑をきれいに突き抜いている。

「すげー…心臓一突きドンピシャじゃねーか…」
「あの位置から投げてこの威力…まっこと、こりゃたまげたの〜…」

かたらは二人の傍に駆け寄ると、天人に刺さった小刀を引き抜いた。

「すまねーな、弓之助。助かったぜ」
「弓之助っ、わしゃ惚れ直したぜよ〜!」
「謝るのはこっちだ。…こいつは俺が仕留め損ねた奴だから、ほら…」

天人の首筋に棒手裏剣が刺さっている。かたらはそれを引き抜いて腰に括りつけてある武器箱にしまった。首の出血が少ないのは頚動脈を外れた証拠だった。

「辰馬、惚れ直すのはまた今度にしてくれないか。まだまだ修行が足りない身だ」
「ほがなこと言うて〜謙遜しのうてもええがやき、可愛くない奴じゃの〜!」

ガシガシと坂本はかたらの鎖頭巾を揺さぶった。

「わっ、やめろ辰馬っ!……いっ」

坂本の手を振り払った左腕に痛みが走った。
籠手を見れば金属板が歪んでいる。先程、攻撃を受け止めたときのものだ。

「ったく、こんな細い腕のどこに力があるんだか…」

スッと銀時に手を引かれた。
勝手に籠手を外され袖をたくし上げられる。手を引いても放してくれないのでかたらは焦った。

「だっ大丈夫だ!ただの打ち身だから、…痛っ」
「骨は折れてねーみたいだが、こりゃ腫れるな。…ま、帰ったらよく冷やさねーと」
「そ、そのくらいわかってる!」
「あん?何だその口は?心配してやってんのに、生意気なガキだなコノヤロー」
「誰も心配なんて頼んでないっ」
「……ほんっと、かわいくねーわコイツ」

銀時はかたらの患部をペシッとたたいて腕を放した。

「っ…叩くことないだろ!」

かたらは自分がわからなくなった。
何故こんなふうに口答えしてしまうのか。昔の自分だったら考えられないことだ。男として過ごすあまりに、反抗心が強くなってしまったのだろうか。

「二人ともやめんか!銀時も大人気ないきに、…ほれほれ、報告じゃ早う戻るぜよ!」
「へいへい」
「返事は一回じゃき!」
「へ〜い」

今も昔も、銀時は変わらない。
しっかりしているときもあれば、面倒くさそうに仏頂面を見せるときもある。すごく仲間思いなのも変わらない。
かたらは銀時の背中を見つめた。
自分のなかの違和感、その原因は分かっている。銀時が接するのは弓之助、そのやさしさはかたらに向けたものではない。
分かっているからこそ、近くて遠い存在に感じてしまうのだろう。


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