朝方、寒さに身を縮めて寝返りをうつ。
かたらは隣にある温もりを求めて手を伸ばした。
「………」
しかし、そこにあるはずの温もりはなくて、ひんやりとした感触に目を見開く。
「!……銀兄?」
もしかして寝過ごした!?
バサッと勢いよく起き上がった途端に下腹部に鈍痛が走って、かたらは顔を歪める。でも今は事後の甘い痛みに浸る余裕などなかった。
部屋の寒気に素肌がさらされ思わず自分を抱きしめると、やけに身体がさっぱりとしているのに気づく。銀時が清めてくれたのだろう。
カタッ…
玄関の方から物音が聞こえてハッとなる。
「銀兄…っ」
かたらは近くにあった銀時の着流しを羽織って立ち上がった。とろりと内股を伝う感覚に慌てて下着をはき、帯も締めずに走り出す。
まだ間に合う。最後の最後に何も言えないなんて、そんなのは嫌だった。
ふらつく足に鞭を打って、障子襖を開け廊下を走る。途中、着流しの裾を踏んで転んでも立ち上がる。
「銀、に…っ!」
玄関にはいつもと違う衣装を身につけた銀時が佇んでいた。口元にはやさしい笑みを浮かべ、おいでと言うように手を差し出している。
かたらは目頭が熱くなり、すぐさまその胸に飛び込んでいった。
涙が止まらなくて嗚咽する。言葉も上手く喋れない。
「銀に、…勝手にっ、黙って行くなんて…許さない…っ」
「はは、怒んなよ。…気持ちよさそーに寝てるお前が悪ィんだ」
銀時は幼子のように縋りついているかたらの頭を撫でた。大好きな夕色の髪、離れてもきっと夕日を見れば想うだろう。
しばらく落ち着くまで撫でていると、かたらが口を開いた。
「銀兄……黄水仙の花言葉、他にもいくつかあるの…」
「ウン?」
「……わたしのもとへ帰って」
かたらの腕に力がこもる。
「…ぜったい、ぜったいっ…わたしのところに…帰ってきて…!」
「ああ…必ず帰る。指切りしたからな、約束は守るぜ」
銀時は腕を解いて身を屈めると、かたらの涙を指で拭った。
そのまま触れるだけの口付けを交わす。それは短いようで長く感じた時間。忘れまいと記憶した時間。
どちらからともなく唇を離して見つめ合う。
「行ってくる」
その大きな身体を引き止めることはできなくて、
「……行ってらっしゃい…」
その小さな身体を連れて行くこともできない。
互いに持てるものは愛した記憶と交わした約束、お揃いのお守り袋だった。それでも心は共にあると信じている。
また、いつか逢えるその日まで。
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