生きている実感


ふわふわ。銀時の天然パーマ。白くてとてもやわらかい。猫っ毛でくせ毛。それを指先に巻きつけては放しの繰り返し。
最近のかたらは就寝前に必ず銀時の髪を触っていた。

「かたら……いつまで触ってんだよ。ハゲたらどーすんだ」
「だって、気持ちいいんだもん。銀兄の髪」
「だもん、じゃねーぞコラ。つーかお前の顔がヤバイから、マジで」
「マジで?やばい?」

かたらは銀時の髪から手を離して、自分の頬を覆った。うっとりと散々人の髪を弄んでいながら、恥らうような仕草。

「だからそーゆーのがヤバイっつてんだろ。…はぁー…」
「それってどんな溜息?」
「……目の前に餌があるのにおあずけを食らってる犬の溜息」
「ふふっ、我慢しないで食べちゃえばいいのに」
「お前、わかってて言うのやめろよな。…はぁー…」

蛇の生殺しというのはまさにこの状態のことだろう。
約束を交わした日から、銀時はかたらの部屋で寝るようになった。一緒に寝るといっても布団は別々に敷いており、ぴったりと布団同士をくっつけて、枕を互いに寄せて寝れば、丁度手の届く距離になるくらいだ。
如何せん、この距離が問題だった。もどかしくて死んでしまいそうだ。
銀時はあれから意識してかたらに触れることを自ら禁止した。手を出したら最後、欲望に負けまいと必死に本能と戦っている。現在進行形で。

「はぁ〜…」
「何でお前まで溜息なんだよっ」
「だって、目の前に美味しそうなものがあるのに、おあずけなんだよ?」
「喧嘩売ってる?ソレ喧嘩売ってるよね?」
「うん。銀兄買ってくれる?」
「か、買うわけねーだろっ。もういい、早く寝ろ。つーか俺を早く眠らせてくれ」

銀時は掛け布団を頭まで被った。
こっちは我慢しているというのに、かたらはお構いなしにからかってくる。
以前はこんなに絡んでくる性格じゃなかったのに、あの一件からがっつりと絡んでくるようになった。
まあ、好きな相手にはイジワルしたくなるものだ。そんな気持ちもわかっている。わかっているからこそ、これ以上挑発しないでほしいのだ。

「ねぇ……銀兄…」
「………あんだよ?」
「手、繋いでもいい…?」

訊いておきながら、もぞもぞと銀時の手を捜すかたら。銀時はその手を掴んで握る。

「ああもう…少しだけだぞ?お前が寝たら離すかんな、わかったか?」
「うん。でも、銀兄が先に寝たらずっと握ってるからね?」
「んなこと言ったって、朝起きりゃあ離れてるからね」
「銀兄のいじわる」
「はいはい、おやすみ」

ぎゅうっと一瞬だけ力を込めて、おやすみのあいさつ。

「おやすみ…銀兄」

ふたりは静かに目を閉じた。
口元に笑みを浮かべて、眠りに落ちるまではこの手を離さない、離したくないと、お互いに考えることは同じだった。
繋いだ手に意識が集中する。温かくて安心する、愛しさがこみあげる。本当は手を繋ぐだけじゃ足りなくて、もどかしいと思っている。なのに心は矛盾して、満たされている。
この手を通して、ふたりはひとつに繋がっていた。
トクン、トクンと心地良い律動が伝わって、生きているという実感を与えてくれる。今はそれだけで十分だ。今はまだ、これくらいの距離でちょうどいい。焦らず、少しずつ、縮めていけばいい。

一歩ずつ、愛を伝えていけばいい。


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