似ているふたり


かたらが攫われた事件から早数週間。
四人はいつも通りの生活を取り戻していた。学問、剣術修行はもちろん、最近では体を使った武術も勉強している。食料もなるべく自給自足と考えて、近くの裏山で山菜を取ったり、農家の手伝い報酬で米や野菜をもらったりしていた。何にせよ体を動かすことは鍛錬の一部で、幸い季節は秋、食料に困ることもなかった。
皆が皆、肉体的にも精神的にも強くなろうと努力していた。とりわけ、かたらは見違えるほどに気合いが入っていた。



「晋助、かたらのことをどう思う?」

稽古の休憩中、唐突に桂が訊いてきた。

「どう思うって、どういう意味でだ?」

まさか色恋の好いているとか、いないとかを訊くつもりではあるまい。
高杉が汗を拭って視線を上げると、話題の当人は少し離れたところで銀時と足技の練習をしていた。

「最近…というか、あの事件があってから…かたらが変わったと思わんか?」
「あん?いい方向に変わってんだから問題ねーだろ。ヅラァ、俺たちが気にするこたァねーよ」

さらりと返して高杉は仰向けに寝転んだ。枯れ草の匂いが鼻をくすぐる。

「良い方向であるのはわかるが、何かこう……心配になるのだ」
「結局、てめェはいつも心配してんだろが。アホ」
「アホじゃない、桂だ。……元気すぎて、本当は無理をしているのではないか、と俺は思うのだ…」

悩む桂の背中を高杉は足で小突いた。

「いだっ!何をする晋助っ」
「ヅラよォ、俺から見りゃあ逆だ。無理してたのは事件前のかたらで、今のかたらは別段無理してるようには見えねェよ」

高杉の意見に桂はフムと考え込む。

「ヅラァ、変わったのはかたらだけじゃねェだろ。アレ見ろ、銀時の野郎。……ククッ、生きた面ァしてやがる」
「………そうだな、貴様の言うとおりだ。…銀時もかたらも、生き生きとしているな」

それは以前よりも強く。

「あのふたり、似てると思わねェか?」
「似てる……とは?」
「…境遇もあるが、性根が主に、な。出会った頃を思い出してみろよ。ふわふわと何考えてんだかわかんねーし、心ここにあらずボケッとしてたり、片や死んだ目ェして、片や偽の笑顔ときた。言い方が悪ィが、死者が生者の仮面被ってるようなもんだったぜ」
「それは殆ど銀時のことであろう!?かたらはそんな………まぁ、最初の頃はそんな感じだったかも知れぬが…」
「生きてることを理解せず、生きることに執着すらねェ感じだった。俺の目にはそう見えた」

それを聞いて、桂はハッと気がついた。否、やっと気がついたと言うべきか。

「わかった!わかったぞ、晋助っ!!俺にもやっとわかった!」
「ヅラァ落ち着け」
「ヅラァじゃない、落ち着いている桂だ!」
「で、何がわかった?」
「………無理して生きていた、だろう?」

この言い方が一番しっくり当てはまる。桂は自分で納得して頷いた。

「…今までのかたらは、どうも無理をして生き急いできた感じがするのだ。今思えば、な」
「で、今のかたらはどうだ?」
「…生き生きと輝いている。生きる意味を、目的を見出したのだろうか…」
「まァ、ふたり同時に吹っ切れたみてェだな。志定まれば、決起盛んなり。いいことじゃねェか」
「うむ。血の繋がりなど関係ない、あのふたりは本物の兄妹だな」
「ククッ、ヅラじゃあ銀時には勝てねェな」

高杉には人の本質を見抜く力がある。
桂はそれが羨ましいと思う。自分はいつも妙に考えすぎて物事の本質を見失ってしまうのだ。

風にのってかたらの笑い声が聞こえた。
ああ、確かに以前のかたらとは違う。あれは心の底から湧き出る本物の笑顔。

「晋助、貴様も銀時には勝てんぞ?」

桂は声を出して笑った。


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