救出と真相


食べるものが、ない。
松陽先生が家を留守にする間、しばらく食うに困らないよう結構な量の食料品を用意してくれていたのに、あっけなく食べ尽くしてしまった。
理由は簡単、食い扶持が二人から四人に増えたからだ。桂も高杉もここへ来る土産としてお菓子を持ってくるが、お菓子は所詮おやつにしかならない。おかずにはならないのだ。

かたらは先生から貰ったがま口財布を握りしめて、村の食糧市場に行くことに決めた。
先生からお金は預かっているし、お小遣いも貰っていた。この四人で買出しに行くのも初めてだし、帰りに団子の美味しい茶屋にでも寄っていこう。
今日もまた楽しい一日になるだろう、かたらは心を弾ませた。





「かたら、野菜は俺が持つぞ。重いものは任せるがいい」
「いいのいいの、小太郎には別の物持ってもらうから。野菜は銀兄が担当ね!」

まずは八百屋で必要な野菜を調達。日持ちするものを選ぶとどうしても根菜、芋類が多くなってしまう。
銀時は野菜が一杯に詰まった布袋を持ち上げた。

「ハイハイ、って結構な重さじゃねーかオイ。肩がいかれちまうっつーのコレ」
「かぼちゃがいっぱい入ってます」
「はあァ?かぼちゃなんて大量に買う必要なんかねーだろが」
「だって銀兄、栗かぼちゃ好きでしょ?」
「イヤ、好きだけども、こんな沢山いらねーんだよっ!どーせなら小豆買ってくれ。そして餡子を作ってくれ。そしたら俺がご飯の上にのせて食ってやるから!」

ご飯の上に餡子。想像しただけで歯が痛くなるような、胸焼けしそうな感じだ。

「銀時、正気か?まったく、どこまで甘ったるい奴なんだ貴様は」
「糖尿になって死ね、バカ」
「あ?小豆バカにすんじゃねーぞコラァ」
「わかった!小豆も買っていこう!あ、お砂糖も買わなくちゃね!」
『買うのかよっ!!』

結局、かたらは銀時のために小豆を購入した。これで白玉粉を買えば白玉ぜんざいが作れるし、かぼちゃと小豆を一緒に煮込めばいとこ煮もできる。

あれこれと会話しながら四人は市場を練り歩いた。
乾物屋では乾燥昆布、わかめ、ひじき、麩、鰹節、魚の干物。醸造所経営の屋台では味噌、砂糖、その他調味料を手に入れた。夕食用に絹豆腐と生魚を買えば、これで大体の買い物は終了である。
あとは帰りがてら茶屋で一休みするだけだった。

「おばちゃん、お団子とお茶四人前下さいな」
「あいよ。あれ?かたらちゃんじゃないの!久しぶりだねぇ〜買い物帰りかい?」
「そうなんです。いっぱい買っちゃった〜」
「それでお付の者がに荷物持ちってわけだ。ほら、そっちじゃ陽に当たるから中に座りな」

女主人は中の席に案内してくれた。
荷物を床に置いてふうっと一息。銀時はしかめっ面で自分の肩を揉みだした。

「あ゛ー肩痛ェー…」
「銀時、これも鍛錬のうちだぞ」
「そんなん言うんだったらヅラが持ちゃーいいだろ。マジ肩痛ェーんだってコレ」
「ククッ、帰り代わってやろうか?」
「え?何、晋ちゃん代わってくれんの?じゃ頼むわ」
「晋助ダメだよ。銀兄を甘やかしちゃ」
「うむ。かたらの言うとおりだ」
「……だそうだ。残念だったなァ、銀時。ま、がんばれや」
「イジメ!?」

しばらくして四人前の団子とお茶が運ばれてきた。
皆にいじられ項垂れていた銀時も甘いものを食べればすっかり上機嫌だ。実に単純である。女主人が串団子を一本ずつおまけしてくれたし、結構お腹が満たされた。かたらは食べきれず、おまけ分を銀時にあげた。

「……あのね、銀兄。…ちょっと外行ってきてもいい?」
「あん?なんだ厠か?」
「違いますぅー。すぐ戻ってくるから、ね?」

お願い、と首を傾げるかたら。狙ったわけじゃない可愛い仕草に銀時は固まった。

「小間物屋に行きてェんだろ?」

横から高杉が声をかける。茶屋へ向かう途中にあった小間物屋。かたらがじいっと横目で見ていたのを高杉だけが気づいていたようだ。

「うん、そうなの」
「ならば俺も一緒に行こう。かたらだけでは心配だからな」

桂が立ち上がろうとするので、かたらは慌てて阻止した。

「いいの!ひとりで大丈夫だから!すぐ帰ってくるから!みんなここで待っててねっ」

突風のように飛び出していったかたら。残された三人は顔を見合わせた。



小間物屋周辺は他にも出店があり、人が行き交い賑わっていた。
かたらは店に着くと、一通り品物を見渡した。化粧品や髪油、櫛にかんざし、主に女性向けの小間物が店先にきれいに並べられている。鮮やかな色彩のかんざしは値が高く、とても手が出せない代物だったので、仕方なく安値の髪留めで気に入るものを探した。

他に何か買うものはないかと物色すると、小さな箱が目に留まった。
その小箱は桐の木で作られており、手のひら程の大きさであった。かぶせ蓋には真っ赤な椿の花が描かれている。
ただの小物入れだと思って蓋を開けてみると、中には裁縫道具が入っていた。持ち運びが便利なように携帯用として作られたものだろう。

すごくかわいい。

かたらは一目で気に入ってしまい、迷わずお小遣いを投入することにした。生まれて初めての衝動買いが、こんなにも胸が躍るものだとは知らなかった。
買ったものを巾着袋に入れ気分良く店を出ると、茶屋の方へ体を向ける。早く戻らないと銀時に怒られるかもしれない。
走り出そうとした瞬間、強くのどが詰まった。

「んぐ……っ!?」

何者かが着物の襟をつかんでいる。かたらは突然のことにびっくりして後ろを振り向けなかった。
怖い。
大きい手で口元を覆われて、そのままずるずると引き摺られた。
怖い。
通路から外れ、人気のない林まで連れていかれる。
怖い。
かたらはこの怖気を憶えていた。

「よォ、久しぶりだなァ。まさか、こんな辺鄙な山間部に隠れてたなんてよォ」

ゆっくりと顔が近づいてきた。

「てめェが逃げたせいで、俺らがどんだけ痛ェ思いしたかわかるかァ?」

その男は三年前、自分を遊郭に売り飛ばそうとした浪人の一人だった。
ひどく懐かしく思うと同時に頭の中が混乱して、助けを呼ぼうと息を吸ったが、悲鳴は簡単に遮られた。かたらは頬を叩かれ勢いよく地面に倒れた。

「うっ……っ」
「ほォ、随分と成長したモンだ。一丁前に色気づきやがって」

男はかたらの上に圧し掛かり、顎をつかんで唇に息を吹きかけた。
両手首を左手で押さえ頭上に固定すると、右手でかたらの体を嘗め回すように触っていく。着物の上から胸を強く揉まれてかたらは呻いた。

「うぅ…いっ痛ぁ…」
「叫ぶんじゃねェぞ?」

叫びたくても男の重みで息継ぎさえ上手くできない。

「!!」

いきなり男の手が太股に割り入ってきて、その感覚に鳥肌が立った。
まだ誰にも触らせたことのない場所に、無遠慮に太い指が突きたてられた。布越しでも痛くて堪らない。

「…まだ処女みてェだな。折角だからこのまま俺が開通しちまうってのもアリだなァうん」

ごそごそと袴から一物を取り出そうとする男の背後に影が見えた。それが銀時だったら、どんなによかっただろうか。

「オーイ。何ひとりで楽しもうとしてんだよォ」

現れたのは浪人の仲間だった。

「あんだよ、おめェも犯りてーのか?…順番な、俺の次な」
「違ェーよ!こんなとこで犯ってる場合じゃねーだろが!日が暮れる前に運んじまったほうがいいだろーよ。湊屋の旦那に引き渡しゃあ、たんまりと金がもらえるぜェ。あっちに駕籠(かご)出してもらってあるからよ、そんガキ連れて行こーや」
「ちっ、お楽しみは後にしろってか……ったく」

ドスッ。
鳩尾に鈍い音がして、かたらは意識を手放した。

「悪い子はお寝んねしてな。後でたぁ〜ぷりお仕置きしてやるからよォ」
「お前…、そういう趣味だったんだな…」


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