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異世界ハニー

Step.20 北の港町

「赤い髪に緑の上着を着た、魔物使いの少年を探せ。本当に大精霊の宝玉を狙っているかもしれん。アオスブルフ様に害が及ぶ前に、何としてでも捕らえろ!」
 大通りから、大きな声が聞こえてくる。ただの盗賊ごっこ疑惑から、随分と話が飛躍したものだ。しかも魔物使いと呼ばれている。実際のあずきとの差に、思わず苦い笑みが浮かぶ銀秘命(しろがねひめのみこと)である。
 あずきは、スッポン配達、と書かれた緑色のジャケットを脱ぎ、近くの店へと持ち込んだ。この上着を目印に探されているのなら、手放す他にない。
「珍しい素材の服だね」
 布を店先に並べていた店主が、スッポン配達のジャケットをしげしげと眺めて口を開いた。たしかに、あずきの服はこちらの世界には無さそうな素材でできている。ジャケットの下に着ていた長袖のティーシャツは、ポリエステルだ。
「百ヒノクニといったところかな? 未知の素材で、扱い方が分からない」
「うん、それでいいです、ありがとう」
 銅貨をジャラリと皮袋に入れて渡され、あずきは頭を下げた。そして店内をぐるりと見回して、こうも言った。
「この店で一番安い布をください。頭に巻ける分だけ。ぼろくて構わないから」
 ぼろ布をターバンのように頭に巻いて店から出てきたあずきが次に向かったのは、武器が並ぶ店だった。銅でできた剣や、棍棒なども置かれている。おそらく首都で傭兵として生活する者のために揃えられた品なのだろう。
「すみませーん、剣を探してるんですけど」
 あずきの呼び声に姿を見せたのは、こんもりとしたヒゲを蓄えた壮年の男だ。彼はあずきが持っている銅貨を数え、小さく頷くと、店の壁にかかっていた地味な短剣を取り出して、差し出してくるのだった。
「それくらいの予算なら、この短剣だな」
「すぐに折れたりしないですよね……」
「はっはっは! おもちゃの剣なんて、うちでは取り扱ってないよ」

 あずきは首都を出た。銀秘命という目立つ存在がいる以上、あの街でゆっくり過ごすことは叶わないからだ。さっさと北の港町から、他の国へ渡った方が身のためであると判断してのことだった。

 青いイノシシを連れて、銀秘命と並び、あずきは地図を広げながら歩いていく。
 道中、見慣れた草を刈り、それを古びた肩掛けカバンに詰め込んでいった。草むらから飛び出してきた、ツノが生えているだけのうさぎ、通称、ツノ生えし者その二を捕らえて捌いた。罪悪感が湧いてくるが、客として船に乗るならば、一人あたり百ヒノクニは必要なのである。金を稼ぐためには仕方なかった。
 日が暮れてゆく中、まっすぐ北へ向かって歩き続ける。明かりもない道は見通しが悪く、目的地に向かって進んでいるのか確かめようもない。
 そんな矢先だった。
 ちろちろと、小さく炎が灯っているのを発見したのは。
「……港町の門、かな」
 隣をずるずると這う銀秘命に目を向ける。夕暮れ時の沈んだ色合いの景色に、真っ白な髪と肌がぼうっと浮かんでいた。
「多分ね」
 銀秘命は短く告げる。あずきは、今まで共に歩いてきた青いイノシシに目を向けると、一瞬考え込んでから、取り付けられた鞍と手綱を外し始めた。
 不思議そうにあずきを見つめるイノシシ。あずきは小さく笑う。
「今までありがとうね。私たちは別の国に行くから、ここでお別れだよ。好きなところに行って、幸せに暮らしなね」
 もうすぐ門が閉まることを門番に告げられ、真っ白な半人半蛇と、赤茶色の人間は、揃ってイノシシに背を向けた。青いイノシシは一人と一柱を静かに見送ると、近くの茂みへと姿を消していったのだった。

「……渡航券?」
 火の国、北の港町、船着場。夕暮れ時であるせいか、船は出ていないそこで、あずきは呆然と受付の男が口にした言葉を繰り返していた。
「ああ、船に乗るには渡航券が要るよ。首都の店だったら、どこでも発行してくれる。パン一つ食べるのを我慢すれば簡単に手に入るぞ。知らなかったのか?」
 今、あずきの手元には、ツノ生えし者その二と薬草を売り払って得た三百ヒノクニしかない。首都に、戻るしかなさそうだ。