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「雪緒さんはあなた方に興味などありません」
 思いの外冷たい声が、僕の口から飛び出していた。
「あなた方を助けたいとみちるさんが言ったから、僕を使わせただけです」
 みちるさんの父親が目を白黒させて僕を見つめている。何をどうすればいいのか分からないといったような表情に見えた。
「それに、馴れ馴れしくユキオと呼ばないでもらえますか」
「……え?」
「呼ぶなら雪緒さんと呼んでもらいたい。あなたは縁が切れているのだから」
 縁。みちるさんが両親と切りたがっていたもの。塩見さんが母親から一方的に切られたもの。
「……あなたは、ユキオ……さん、の、何なの」
 みちるさんの母親の声が震えている。僕の怒りは場を静まり返らせるほどのものなのだろうか。それとも、ここで僕が怒っていることが場違いで言葉に困っているだけだろうか。
 どちらでもいい。
「僕は、彼の隣にいることを許されただけの、同居人ですよ」
 僕にとって少しだけ誇らしい肩書きを口にして、まっすぐみちるさんの両親を見据えた。

「みちるさんの住所が分からず、送り届けることが遅れたのをお詫びします」
 静まり返る酢田さん宅で、僕は口を開いた。住所が分かるものといえばみちるさんからの手紙があったが、あれは塩見さんが破り捨ててしまった。ご両親とは縁を切ったと言い切って家に押しかけてきたみちるさんから聞き出すことも叶わなかったろうから、これは嘘ではない。
 ご両親に許可もなく遊園地やレストランなどへ連れ出したのは未成年者略取になるだろうが、それをわざわざ告白するつもりはなかった。何より、みちるさんに再び危害が加えられるようなことはあってはならない。
「すみませんが、ここから先、あなた方と話し合いをするにあたって、ルールを設けさせていただきます」
「ルールだと?」
「はい」
 塩見さんの家を出る際、彼に言われたことを口でなぞりながら、僕は内心冷たい汗をかいていた。うまく進行できるか、正直言って不安なところがある。
「こちらが三つ話し終えた後、あなた方には一つだけ発言が認められます」
「何を馬鹿な! それのどこが話し合いだと言うんだ!」
「今までみちるさんに発言権を与えてこなかったんです。今度はあなた方が口をつぐむことを覚えてはどうですか」
「みちるにはきちんと褒美を与えている。贅沢もさせている。何が発言権だ!」
「みちるさんはあなたの部下ではありません。所有物でもないんです」
「……」
 父親は黙った。母親の方は先ほどからずっと、こちらの機嫌を伺うように視線を寄越しているだけで、何も言おうとしない。
 とりあえず、ここまでは塩見さんの台本通りに進んでいた。といっても、僕がセリフをそこまで言えたというだけだが。
 みちるさんは俯いて何も言わない。何もしなくていいと塩見さんに言われているからだ。僕と、僕の肩に乗っている見えない愛猫・ミースケで、この場を鎮めるしかないのだ。
「では、その条件で話を進めます。その一、酢田みちるさんの現在の状況は高校生でありながら非常に苦しいものです」
「ふん、他人の家に口出しを……」
「お忘れですか。こちらが三つ話し終えるまであなた方に発言権はありません」
 本当は、気弱な僕なりに感情を爆発させて怒鳴ってやりたかった。
 けれど塩見さんは僕に言った。誰のことも呪わず、普通な存在じゃないと彼の隣は務まらないのだと。
 そうだ。僕は、僕たちは、二人で一人の作家、サトウトシオなのだ。
 塩見さんが僕に与えたプランを、僕が崩してはならない。
「その二、原因としては、ご両親の支配的な過干渉が挙げられます」
「……」
「その三、そこでご提案です。酢田みちるさんを、高校卒業と同時に、塩見桜子さんの養子に出していただけませんか」