骨なしと骨しかないの | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


骨の名は

「そういうのは困るんで……結構です」
 確かネット通販で買ったはいいものの、サイズが思いのほか大きかったニットのワンピースがあったはずだ。私は客間から出て、押入れがある隣の部屋へ向かっていた。押入れを開ける。ニットのワンピースを引っ張り出す。私が着ると袖が余り、ふくらはぎも半分近く隠れる大きさだった。
 半額だからといって買うんじゃなかったな。
「とりあえず、これ着てください。見てて寒いんで」
「拙者、今、全裸でござるからね」
「いや、骨なんで関係あるかは分かりませんけど」
 どうせもう着ないワンピースだ。骨に引っかかって破けようが、未練はない。がしゃどくろと名乗った骸骨は器用に服を着ていって、するん、と袖に腕骨を通した。頭が出てくる。丈がぴったり丁度で、まるで私がこの骸骨のために用意していたかのようだ。
 そんなわけがあるか。
「下はこっちの、ネットで買ったけどぶかぶかだったサルエルパンツをあげますから、履いておいてください」
「貴殿の体に合わない服がたくさん……」
「うるさいな、通販初心者だった時に失敗しただけですから」
「通販初心者? 今はマスターしているのでござるか?」
「今でもたまに失敗しますけど」
「店に行って買えばよろしいのに」
「私、外出しない主義なので」
 そう言うと、骸骨の彼は不思議そうに私を見た。ぽかん、と顎が開いている。おそらく目があったなら、数回瞬きをしていたに違いない。
「えっ……外に出ない?」
「そうです。引きこもりっていうやつです。面倒ごとは嫌いなもので」
「えっ、嘆かわしいーっ!」
 両手を口に当てて、骸骨は驚いたように仰け反った。うるさいなあ、人の勝手じゃないか。
「仕事は? 引きこもりニートというやつでござるか?」
「なんで骸骨に職の心配までされなきゃならないんですか。データ入力とブログとウェブ記事の執筆で収入くらいありますよ」
「あっ、良かったぁー。運動は? ちゃんとしているのでござるか?」
「運動器具なら家の中にありますから」
 何故、骸骨に私の暮らしぶりをアピールしなければいけないんだろう。
 白いニットと黒いサルエルパンツ姿の骸骨は、この家から出ようとしない私に首を傾げていた。
「何ゆえ引きこもりに?」
「そこまで説明する気はありません。さあ、よそに行ってください」
「えっ、ご恩返しがまだ……」
「いらないいらない。殺してほしい人なんていませんから」
 骸骨は、うーんと唸って腕を組む。私は骸骨を見て……ああ、骸骨骸骨とやかましい。いや、確かに骨なんだけど、そう何度も骸骨と呼んでいると、ゲシュタルト崩壊が起きてくる。
「……あなた、お名前は?」
 試しに聞いてみると
「がしゃどくろでござる」
「固有名詞は?」
「ござらぬ」
 名前がない。それは呼びづらい。名前がないのは何よりも不便なことだ。ない方がマシな名前もあるけれど。
「……しゃれこうべの、神戸さんとか」
「どうせならフルネームが欲しいでござるなあ」
「欲張りめ……じゃあ、ホトケさん」
「えー……」
「……死んでるからムクロさん。オダブツさん。ネハンさん」
「それがいい! 拙者、神戸ネハンがいいでござる!」
 こうして目の前の彼は、神戸涅槃という名前に決まった。
 何をわざわざ、厄介ごとに首を突っ込むような真似をしているのか。
 厄介ごとなんて、向こうからやって来るのに。

prev / next

[ しおり | back to top ]