骨なしと骨しかないの | ナノ
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 園田マサオさんは十年前、丑三に引っ越してくる前までは、確かに鼠塚の小学校でPTAの会長を務めていたのだそうだ。
 そこで口論となり、キョウコさんを井戸に突き落とし殺害。事件の発覚を防ぐためにキョウコさんを他の男と出ていったことにして、丑三へやって来た。
 しかしキョウコさんの恨みの念は園田さんに纏わりついていた。一緒にこちらへと来てしまったのだ。そしておそらく、怪異を見ることができない祖母によって、あの井戸に閉じ込められてしまった、というところだろう。
「希望(のぞみ)さん……やっぱりあなた、すごい力があるのね」
 目に涙を浮かべるタカコさん。
 私は首を横に振り、十年の歳月を経て行われたキョウコさんの葬儀を辞した。

「涅槃さん、まだ不満げですね」
 自身の推理が当たったのだから、自分賢い! だなんてアピールしてくるものだと思っていたけれど、彼はずっと黙り込んだままだ。
「……匿名殿、このままじゃ栄殿二世として生きる他なくなりますぞ」
「いきなり喋り出したと思ったら、何ですかそれ」
「だってそうではござらんか! 栄殿の孫が事件解決ぅ、みたいに町では言われていたではござらんか! それってヤバくないでござる? 匿名殿、厄介ごとに巻き込まれライフ開幕セールではござらん?」
「語感だけで喋ってるせいで訳分からなくなってる」
「お祖母様を背負わされるの嫌がってたではござらんかぁ! ねえ匿名殿!」
「それに関してなんですけど」
 駄々をこねるように訴えてくる涅槃さんに向かって、私は口を開く。

「引っ越そうと思います」

「……ワオでござる」
「鼠塚あたりに行きますか。涅槃さんが一々お化け扱いされなくて済みますし」
「栄のグッズは持っていくのか?」
「グッズって……善次郎さん、ばあちゃん推しなのは分かりますけど」
「同担拒否だ」
「同担いないいない」
 鼠塚の郊外に一軒家があるらしい。栄二世として過ごさずに済むためにも、私はそこへ行きたいと思っている。
 何より、総合病院とコンビニが近くにあるらしい。七福神ぽい病院名だったが有名なのだろうか?
 今住んでいるこの家は売りに出すことにした。DIYが流行っているこの時代だ、好きに改装して暮らしてくれることを祈ろう。
「あ!」
 何かに気づいたように、涅槃さんが叫ぶ。
「何ですか」
「拙者まだ匿名殿に恩返ししてないのでは?」
「ちぎっては投げのやつ?」
「そう、それ」
「いらないいらない」
 今回の事件解決で充分だ。そろそろ成仏してくれてもいい頃だと思う。
 荷造りをしながらワイワイと会話していたら、バンバンと家の引き戸が叩かれた。扉が叩かれるのは久しぶりな気がする。
 戸を開けると、雪崩れ込んできたのは妖怪たちだった。
「匿名よ! ワシらも連れて行ってくれないか!」
「え、すぽ太郎さん……」
「丑三じゃ暮らしにくい。ほれ、土助も連れてきた」
「何故連れてきた」
「河童も落ち武者たちもおるぞ!」
「百鬼夜行でもする気ですか」
「拙者しんがりがいい!」
「涅槃さんは黙っててください」
 一気に騒がしくなったある日の午後。善次郎さんはそれを見ながらあくびをしていた。 完

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