骨なしと骨しかないの | ナノ
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地域性

 キョウコさんはタカコさんの妹と見て間違いないだろう。キョウコさんが井戸に突き落とされて死んでしまったというのも、おそらく事実だ。
 しかし園田さんはPTAの会長ではなかった。
 夜が明けてから調べてみたが、あの小学校裏の井戸が封鎖されたのは、隣町で同じような井戸に子供が落ちかけたことが理由だそうで、あの井戸自体で事件や事故が起きたという記録はないのだった。
「じゃあ、どうしてキョウコさんはあの井戸に……」
 頭がパンクしそうだ。
 参っている私に、涅槃さんは言う。

「お祖母様のせいでは?」

「は?」
「うーわ声冷たっ」
 唖然としている私に、涅槃さんは、いや、だってねえ、と何かを言いたそうにしている。善次郎さんの方を見ると、栄を悪く言うのか、と不満げだった。
「だって、手当たり次第に封じたり追い払ったりしてきたお祖母様のせいで匿名殿は苦労してきたのでござろう?」
「……そうですけど」
「じゃあ、お祖母様はキョウコ殿のことも問答無用で封じ込めたのでは? ほらあの、すぽ太郎? とかと同じで、手頃な器に無理やり詰め込んだって感じで」
「……ばあちゃんは、相手が狂骨だと知らずに、井戸に封じ込めたと?」
「成る程な。別の井戸で死んで狂骨へと変じ、園田にくっついてこの町にやって来たところを、栄が今の井戸に封じ込めたという推理か」
 善次郎さんも、この考えには不満がないようだ。祖母の悪口は一切許さない、永遠の片思い猫な彼が納得したのなら、まあいい。

 警察が町にやって来た。
 私の通報から、五日後のことだった。

 私はタカコさんのお宅に伺い、園田さんは十年以上前にどこで暮らしていたのかを尋ねたのだ。鼠塚という地名を頼りに電車に揺られ、言われた場所へ赴いてみると、そこでは現在、別の家族が仲睦まじく暮らしていた。
 小学校の通学路付近を歩き、井戸を探す。隠れた場所に、それはあった。蓋をされているがお札はない。
 偶然にも蓋が開いていた、ということにしよう。
 そう思って、井戸の鉄格子の蓋を力いっぱい引っ張ってずらした。
 懐中電灯で底の方を照らす。
 そしてその場で百十番を押した。

 キョウコさんは、そこにいた。

 鼠塚にある総合病院に健康診断を受けに行く途中、偶然見つけた井戸の中に骨のようなものを見た。私が警察で訴えたのは、以上だ。
 身につけた装飾品や歯並びから園田キョウコさんだとすぐに判明したらしい。
 私の隣には善次郎さんがいて、涅槃さんも付いて来ていたが、警察はそれに何の関心も示さず、捜査を続けていた。
 警察の中に鬼がいた。姿を隠す必要がないのか、堂々としている。私たちが丑三(うしみつ)の出身だと分かると、あそこは怪異には厳しい土地だろう、と同情さえしてくれた。
 私はタカコさんの連絡先を警察に伝える。
 タカコさんが鼠塚に呼ばれる。
 そのやり取りから五日後、園田さんは鼠塚からの警察に取り囲まれたのだ。
 丑三の小学校裏にある古井戸のお札を剥がして、キョウコさんを呼び出した。彼女は警察に引き取られていった。
 狂骨となったキョウコさんの供述は、被害者本人の証言として、鼠塚では最重要視されるらしかった。その訴えにより、園田マサオさんは逮捕。息子のタクヤくんはタカコさんが預かることになったそうだ。
「……涅槃さんの思いつきが当たりましたね」
 ポツリと言うと、彼は面白くなさそうに頬杖をついた。

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