骨なしと骨しかないの | ナノ
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どうやらこれは

 善次郎さんが戻ってきたのは、夕食の支度が終わってからのことだった。猫用のカリカリを皿の上によそい、浅めのボウルに水を入れて出す。
「報告は食べてからでもいいか?」
 向かって左目に十字傷がある化け猫の言葉に頷いて、私も夕食をとった。
 涅槃さんはオムライスにケチャップで絵を描き始めていた。

「土助の話では、園田マサオは十年前にこの土地へ引っ越してきたらしい。その頃には既に父と息子の二人暮らしだったそうだ」
「十年以上前のことは……」
「土助が知るわけないだろう」
「ですよね」
 そういえば、園田さんがキョウコという女性といつ頃結婚したのかを、タカコさんに尋ねていなかった。
「で、引っ越し早々田んぼを潰されて、ひどく恨んでいるということだ」
 これだ、という情報はないように思える。
 おまけに、十年前にこの町にいなかったのなら、狂骨の方のキョウコさんの話と食い違ってくる。
「もう一度キョウコ殿の話を伺いに行けば良いのではござらんかな」
 眉間にしわを寄せて考え込んでいた私に話しかける涅槃さんは、口の周りにケチャップをべったりつけていて、なんだかだらしない。
 今シリアスな話をしようとしてるんだから、身だしなみくらい整えて……あ、服にケチャップが飛び散ってる。
「涅槃さん、とりあえず口拭いてください。あと着替えましょう」
「匿名殿、またオムライス食べたいでござる」
「分かりましたから拭いて着替えて」
 通販で買った丈長チュニックが本当に丈長で、私には着られなかったものを手渡して、涅槃さんに問いかける。
「キョウコ殿っていうのは、狂骨の方の?」
「左様でござる。ほら、手に入れた情報をこちらが提示して、キョウコ殿に思い当たる節がなければ別件、反応があったら同一の事件として扱えましょう?」
「なんか涅槃さん頭いい」
「なんで不満げ?」
 二メートル強の骸骨が困惑したような顔つきになるが、そこは気にしないことにする。私たちは夜の小学校裏という怪しげなスポットに足を運ぶほかないのだと、なんだか納得してしまっていた。

 古井戸の蓋に貼り付けたばかりのお札が、ボロボロになっている。黒ずんで、文字がかすれてさえいた。
 私がお札を剥がすと、蓋は勢いよく跳ね上がる。近くの草むらに落ちて回転しながら倒れる蓋を見て、閉じ込められた者の恨みを強く感じていた。
「希望、栄……」
「キョウコさん、タクヤくんという名前をご存知ですか?」
 ずるりと井戸から出てきた白骨のキョウコさんが、ピクリとこちらを向いた。
 恨みがましい視線が私に突き刺さってくる。
「タクヤ……タクヤ……おお、私の子供」
 涅槃さんの読みが当たったらしい。これは一つの事件だったのだ。
「旦那さんの名前は、園田マサオさんで間違いないですね?」
 そう尋ねた時だった。
 ビクンッと痙攣したように、キョウコさんの体が跳ねたのは。
 彼女は頭を抱えてうずくまる。辺りの空気が一気に冷え込んだ。まずい。彼女のなんらかのスイッチを押してしまったらしい。
「おおおぉーっ!」
 キョウコさんは絶叫しながら私に飛びかかってきた。井戸から幽霊のような体がするりと全て出てくる。
 彼女を掴んで押しとどめたのは、涅槃さんだった。
「よいしょ……ちょっと井戸に戻ってくだされ。はーい、すみません、こっちにこうやって……ぽーいって」
 えらく軽く投げ込んだな、キョウコさんを。
 それから井戸の蓋を閉めて、彼は言った。
「匿名殿、お札お札!」

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