骨なしと骨しかないの | ナノ
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名前など記号に過ぎない

 石灯籠と提灯は目を覚まして、化け猫と骸骨に覗き込まれていることに気づいた。ついでにすっぽんの幽霊は、その化け猫がくわえているということにも気づき、ものすごく戦慄していた。
「すぽ太郎ーっ!」
 化け提灯が叫ぶ。
 いや、すぽ太郎って。
「ど、どうする古籠次郎! せっかく栄に復讐できる機会なのに!」
「落ち着くんだ、ちょう三郎! こうなったら最大火力で!」
 ころうじろうとか、ややこしいし、ちょうざぶろうとか、テキトーにも程があるし。一番ひどいのは、すぽ太郎だけど。
 突如閉じ込められた恨みの炎で焼き殺す算段だったらしい彼らは、すぽ太郎を離せ、と要求してきた。涅槃さんが服を着終わるのを見て、私は言う。
「祖母ならもう亡くなりました」
「は?」
「私、希望(のぞみ)栄の孫で、希望匿名(とくな)と言います」
「えっ?」
「祖母の理不尽な仕打ちの後始末をしてます。今のところは」
 そう、今のところは。
 祖母の理不尽な力によって迷惑を被ったものたちを解放して、その後どうするか、という話なのだ。怪異たちの言い分を鵜呑みにすることも危険だろうし、だけど人間たちの都合だけで怪異を払っていいわけでもない。
 そもそも私は怪異を払えない。
「……と、とりあえず」
「はい」
「……すぽ太郎を、離してくれないか」
「じゃあ襲いかかってくるのやめてもらえますか」
「あ、お、おう。骸骨と化け猫に囲まれてまだ挑めるほど、度胸ないんで」
 人に食べられた恨みが募って幽霊となったのが、すっぽんの幽霊。
 長い間使われたことによって魂が宿ったのが古籠火と化け提灯。
 どの妖怪も、大して喧嘩慣れしていないようだった。
「ええと、古籠火(ころうか)さんは」
「古籠次郎だ」
「原型とどめ過ぎな名前、流行ってるんですか?」
 泥田坊の土助(どすけ)さんがまだまともに見えてくる。死んじゃったしゃれこうべだから神戸涅槃、なんて名前をつけた私が言えた義理ではないのかもしれないけれど、もう少し捻ってほしかった。
「それで、お三方はどうして封じられていたんですか」
「ワシは、そこら辺を漂っていたら、嫌な気配がすると言われてな」
 すぽ太郎さんが落ち込みながら呟く。申し訳ない。
「俺は祭りの日にぶら下げられて、火を吹いて人間を驚かせていたら」
 ちょう三郎さんが言う。ううん、それは少し悪質かな。
「人通りが少ない場所で勝手に明かりを灯していたら、撤去されて」
 古籠次郎さんがテンションの落ちきった声で告げる。え、切ない。
「……無罪、かな」
 私がそう返した途端、涅槃さんが「勝訴」と書かれた紙を出してきた。
 どこにしまってたんだ、それ。なんで持ってるんだ、それ。

 さて、残るは小学校裏にある古井戸だ。水神様の遣いからは、近づかない方がいい、と言われていたけれど、どうしようか。
「とりあえず見るだけ見て、ヤバそうだったら退散しませぬか?」
「わあ、涅槃さんがまともなことを言ってる」
「ひどくない匿名殿? 今まで拙者がまともじゃないこと言ってたみたいな」
「勝訴の紙出してた人が何言ってるんですか」
 歩くのに疲れたのだろうか、善次郎さんは涅槃さんの肩にだらりと乗っかり、ぺろぺろと前足を舐めている。涅槃さんは小学校を見て、元気な子供たちの声を聞いて、ボソッと呟いた。
「何か食べたいでござる……」
「いやあね涅槃さん、口裂け女を食べたでしょ」
「痴呆老人みたいな扱いやめてくださらん?」
「あとで好きなだけおにぎり作りますから人は襲わないでくださいね」

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