骨なしと骨しかないの | ナノ
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祖母じゃない

 土助さん曰く、この庭は元々田んぼだったらしい。
 それを潰して庭にしたという。
「田を潰されて、ひどく悲しかった。恨めしかったよ」
 彼は言う。
 田を返せ、と声を上げれども、その声を聞き取ってくれる人間が、今まで一人もいなかったということを。
 祖母も土助さんの声は聞き取れなかっただろう。気配を感じるたびに、問答無用で払っていたのだ。だから土助さんは私を見たときに怯えた。
 ばあちゃんめ。
 何も考えずに払いおってからに。
「……園田さん」
 私は、庭を直していた男性に声をかけた。
「この庭は、元々田んぼだったようですね」
「おお、そんなことまで分かるのか、さすが拝み屋だな!」
「庭が荒らされているのは、田んぼを返して欲しい妖怪の仕業でしたよ」
「それで、追い出してくれたんだろうな?」
「いえ……あの、田んぼを潰された悲しみと悔しさを、分かってほしいと、彼は言っています」
 園田さんは、顔色を青くした後、赤くした。眉を吊り上げて肩を怒らせる。
「どういうことだ!」
 そして私の襟を掴み、怒鳴りつけてきた。
「拝み屋だろう、あんた! 二代目の! なのに悪いものを払ってもくれないのか! 何のための拝み屋だよ!」
「私は祖母ではないので……」
「知ったことじゃない! 俺たちにとって良くないものは封じてくれよ! 追い出してくれよ! あんたのお祖母さんはそうしてくれたじゃないか! それで問題なかったじゃないか!」
 あったわ馬鹿たれ。
 もろに私の方に跳ね返ってきていたわ。
 園田さんの大声で、何事かと町の人々が集まってくる。
 園田さんはそれをチャンスだと考えたのだろうか、ニヤリと笑って周囲を見回した。そうして大きな声を張り上げた。
「拝み屋なんだから、悪いものは片っ端から払ってくれなきゃ困るよな、皆!」
 ざわざわと周囲が何かを言っているのが聞こえてくる。そうだ、当たり前でしょう、拝み屋さんってそういうものじゃないの、などなど、自分たちの都合最優先で……いや、妖怪が見えないのだから仕方ない部分もあるのだろうが、祖母のやり方を盲信している人たちばかりのようだった。
 じゃあ、私じゃなくて祖母に頼んでくれよ。
 皆して栄さんの頃は、お祖母さんの時はって。
 私の中で、苛立ちが募っていく。

「涅槃さん」

 自分でも驚くほど淀んだ声が出た。
 ざわついていた人々が、次第に静かになっていくのが分かる。
 園田さんが私を見て、ひい、と短い声を上げた。私の不機嫌ぶりは、そんなに伝わりやすかったか。そうか。
 どうでもいい。

「涅槃さん。この人たち……殺してくれませんか」

 ぼそりと呪うように呟いた私の言葉に、拝んでくれるんじゃなかったのか、と園田さんが怯えるのが見て取れた。
 涅槃さん、あなた毎度言ってたじゃないですか。私に恩返しするために、人間を殺してみせるって。
 今ですよ。
 私と祖母の見分けもつかないような人たちだ。
 さっさと握りつぶして、食らってしまえばいい。
 涅槃さんは、私を見て、静かに言った。
「なりませぬ」

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