風と私/竜/魅入られる
【風と私】
風が強い。それだけで外に出たくなくなる。風は煩い。ごうごうと耳元で渦巻くあの音がとても苦手だ。
しかし外に出てみればこれだ。私の背を押すように力強く吹くし、吹けば若干涼しい。
風の音はイヤホンで防げばいいかと取り出したら、突風が吹いてそれを弾き飛ばした。
音まで愛せという事らしい。
【竜】
風が膨らむ。どう、と音を立てて風は私の体を包み、そして通り過ぎていった。
目に見えない竜が体を突き抜けていったかのようだった。
きっと竜なのだ。竜はそうやって気まぐれに、気ままに、町を、国を、空を飛んで突き抜けていく。
巻き込まれた洗濯物が吹っ飛ぶのもお構いなしで。
雲を引き連れて。
【魅入られる】
指切りげんまん。小さな頃の約束を今思い出した。
「大きくなったらお嫁さんになって」
私と同い年くらいの少年。緑の黒髪が美しかった。
たしかこの神社の裏で指切りしたな、と覗き込んでみる。
座っているのは緑の黒髪の少年だった。あの頃と全く変わらない。
「思い出してくれた?」
神様は笑った。
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