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心許ない活力/泉じゃない/件/ピエロ


【心許ない活力】(420字)
 人生に疲れていた時、小さな子供を押し付けられた。疲れ切っているんだと言っているのに、面倒ごとを増やされた気分だった。
 親戚はその子を育てるつもりなどないようで、その子の体は軽く、その子の瞳は弱々しかった。
 なんで子供の世話なんか……そう胸中で呟いて少年を見る。隅っこで三角座りだ。
「良い子にするので、よろしくお願いします」
 少年は小さく呟いた。
 ああ、子供がなんて顔してるんだ! 子供っていうのは、もっと、我儘であるべきじゃないのか!
 家に連れて帰り、風呂に入れた。痣を見つけて警察を呼んだ。親戚が捕まったとかいう話を聞きながら、私は子供にスパゲティを茹でた。
 人生に疲れているというのに、取らなければいけない手続きがどっと増えた。
 この子が通う学校の手配もしなければ。あとそうだ、家を掃除して、子供部屋を確保……子供服の調達も。
「名前は?」
「西野タク」
「明日から東山タクだね」
 人生に疲れ切っている筈の私が、明日からの事を考え出していた。

【泉じゃない】
「あなたが落としたのは金ですか、銀ですか?」
「銅です。銅貨。十円玉」
「あなたは正直者ですね、金も銀もあげましょう」
「……ちなみに銀って何なんです?」
「空き缶のプルタブですね」
「ふふっ……金は?」
「子供用の指輪です」
 排水溝に小銭を落としたら、鼠が大張り切りで問答してきた。

【件】
「何も予言しないで」
 生まれた直後に言われ私は面食らった。この人間は、予言をしない件がいつまで生きられるのか見たいのだという。
 件は牛の奇形児。長く生きる筈もない。
 ミルクを飲まされ、干し草を与えられた。
 一生懸命世話を焼く人間に、私は口を開く。
「幸せにおなり」
 予言ではないけども。

【ピエロ】(280字)
 笑ってください、僕がずっこけた時。笑ってください、僕がジャグリングを失敗した時。笑ってください、僕の自転車がバラバラになって、僕が気づかず歩いていた時。
 こんなに分かりやすいコメディはないのだから。こんなに笑わせる努力を怠らない者はないのだから。
 素直に「あはは」と笑ってください。
 ピエロは怖いなんて言われるけれども、明るく振舞っているのに本当は孤独だなんて言われるけれども、僕の本心は「ただただ一生懸命」。それだけさ。
 そりゃあ練習はキツイよ。そりゃあ猛獣は怖いよ。でも、お客さんの前なら笑って走り回るよ。
 ピエロが笑ってるのは泣き顔を隠す為なんて、全部嘘だよ。




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