うつる/家鳴り/ちょっとした気遣い/百鬼夜行のお作法
【うつる】
Aはフォルダにある写真を全て消したという。何でも肝試しに行って以来、撮った写真が皆心霊写真になってしまうのだそうだ。
「最新の写真を全部消したんだ……そうしたら、今まで何も写っていなかった過去の画像に現れるようになって」
頭を抱えてうずくまるAを、透けている長髪の女が覗き込んでいた。
【家鳴り】
小鬼に群がられている。確か家鳴りという、家の柱を大勢で揺らしてギシギシ音を立てる妖怪だ。
家鳴りは私を揺らす。
そうだ、確か「うちは賃貸だから揺らさないで」と頼んだのだった。
だから私を揺らしているのか。
「ギシギシ」
試しに口で言ってみたら、家鳴り達は表情を明るくしてじゃれてきた。
【ちょっとした気遣い】
叔母が鬼と、伯父は人魚と結婚した。なので私には鬼と人魚の従兄弟がいる。角や尾ビレを隠し、みんな人間社会に馴染もうと必死だった。
だから私は会社を興した。
「有限会社ノーヒューマン」
安直な名前だけれど入社希望の若者は沢山来る。
「お疲れ様です、社長」
火の玉に言われて手を振り返した。
【百鬼夜行のお作法】
百鬼夜行に出会ってしまった。ヤカンやウォークマンやラジオに手足が生えて歩いている。
現代のはこんななのか、と感心して見ているとスリッパの妖怪が私の頭に被さって来た。
「伏せて伏せて」
言われて伏せてみたら、次に来たのは夜行さん。ああ、しんがりだ。
スリッパに守られて夜は過ぎていった。
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