綺麗の基準は人それぞれ/電車の中/愛読/一年
【綺麗の基準は人それぞれ】
「八方美人ってあんべ?」
「あるね」
「あれ、誰っからも嫌われねぇように努力してる奴を馬鹿にした言葉じゃねぇんかって、ずっと思ってたんさ」
「うん」
「努力してる奴はどっから見ても美人だべ?」
それがたとえ不可能な目標だとしても、頑張る人は美しいのだと、林檎作りに精を出す彼は言った。
【電車の中】
ぎゃんぎゃんと赤ん坊が泣き喚く。喉が心配になる程に。
すみません、すみませんと母親が周囲に謝りながら赤ん坊をあやす。
私にもすみませんと謝るものだから、私は咄嗟に
「あ、いや、いい肺活量だと思いますよ!」
と頓珍漢な事を言ってしまった。
母親も周りも笑う。赤ん坊がキョトンとしていた。
【愛読】
本を読むのに忙しくて本を読む時間がないから泣く泣く本を読む時間を割いて本を読んでいるんだ。
悲しそうに言う君に、私はぽかんとしてしまう。つまり、本を読む途中で別の本も並行して読んでいる、という事か。
「一日が四十八時間あれば」
君は嘆いた。
四十八時間あっても足らないだろうと思った。
【一年】
その惑星に行くと寿命が驚く程延びるというので、誰もが行きたがった。なんと二倍に延びるらしい。
宇宙船に我先にと乗り込み、醜い争いを起こす人々を見て、乗らない私はただ溜息をついた。
その惑星は地球でいう半年を「一年」と数えているので、自然と寿命が倍にカウントされるだけだと知っている。
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