おうむ返し/悪役に愛を/お偉いさんは生きたがる
【おうむ返し】
暇そうにテレビを見ながら、有名なイギリスのテニス選手以外知らないと君は言う。僕はひどく驚いた。
「普通は自国を優先するもんじゃないの?」
「さあね。ところで貴方、今回遅刻したでしょ。何か言う事はないの?」
「いやそれは……準備に手間取ってね」
「普通は時刻を優先するもんじゃないの?」
【悪役に愛を】(280字)
「食べちゃうぞ」
「なんで?」
「狼は人を食べるんだよ」
「なんで?」
キョトン顔で二足歩行の狼に問いかけるのは、幼女だった。
子豚の三兄弟も、赤頭巾の祖母もいない、木でできた小屋の中。幼女は首を傾げながら口を開く。
「お腹すいてるならさー」
「お、おう」
「目玉焼き作ってあげよっか?」
「狼は肉食なんだよ」
「ハムあるよ! ハムエッグにしよ! じゃあ、そこに座って待ってて」
幼女は器用にフライパンを操り、卵を焼いていく。大人しく待つ羽目になった狼は、どうしてこうなった、と幼女の背中を見つめていた。
「怖くないのか、俺が」
思わず尋ねると、幼女は、別に普通、と答えた。
【お偉いさんは生きたがる】
「残りの寿命を買い取ります」
立て看板がかけられたテントの中に入ってみると、暇そうなフード姿の骸骨が居た。手には大きな鎌を持っている。
「寿命を買い取ってどうするんです」
「魔界のお偉いさんに売るんですよ。長生きしたいみたいでね」
それならと腕時計の寿命を差し出した。五百円で売れた。
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