海の娘/一秒先も未来/一筆入魂
【海の娘】
遊泳禁止の看板が立っている。ほんの出来心だった。
何の用意もなく飛び込んで海に沈んでいく私はさながら潜水艦といったところか。
人生に疲れていた。それだけだ。目前で海の藻屑が舞い踊っている。
私の体が持ち上がる。誰かが引き上げているのだ。何だと思えば、魚の尾を持つ少女が私を見ていた。
【一秒先も未来】
「私、未来が見えるの」
深刻そうに言われて、私はぽかんと口を開けた。何でも明日は祖母が亡くなって急な出費があるのだと言う。
「だから貯金しておいたの」
溜息をつきながら彼女は紙幣に皺を付けだした。
そんな彼女にキスをする。
「!?」
「キスをされる未来は見えなかったの?」
「……ええ」
【一筆入魂】
縦横無尽にのたくる蛇のような文字は、辛うじて「申し上げ」の部分だけ読めた。手紙といえば毛筆で一筆、なんて発想を持つお祖父ちゃん子の後輩が私に果たし状のようによこした物だった。
「す幕り申し上げーむいます?」
「そ、そうです!」
後輩の顔は赤い。
ああ、大体なんて書いてあるか分かった。
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