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実を結ぶ桃


 何故だろう。
 懐かしかったというのは本当だけれど。
 拒絶されたわけではないと分かっているのだけれど。
「お幸せにね」
 その一言で、つい寂しくなってしまった。

 セーラー服を揺らし、並んで歩いて。
 手を繋いで、無邪気に指を絡ませて。
 私は確かに彼女を愛していた。
 思春期の揺らいだ自我がそう思わせていただけなのかも知れないけれど。
 確かに愛情に溢れていた。
「キス、しよう?」
 そうやって唇を近づける。
 彼女はぼんやりとした瞳でそれを見つめる。
「恥ずかしいよ」
 彼女の声。
 頬がやや朱色。
 ああ、綺麗。
「大丈夫、私たち、恋人じゃない」
 この時間が永遠に続くなんて思ってはいなかった。
 それは誰にでも分かる事で、私たちも薄々感づいていた。
 だからこそ跡を残したかったのだろう。
 私と彼女は唇を合わせた。
 当時流行っていた甘い香りのリップクリームが、私と彼女の間でにおい立つ。
「恥ずかしいね」
 唇を離した彼女が微笑む。
「恥ずかしいね」
 桃の香りに擽られるように私が笑う。
 確かに愛があった。
 確かに幸せだった。

「どうしたの?」
 彼が問いかけてくる。
 大丈夫、なんでもない。
 溜め息をついて、俯いていた顔を上げる。
 私はもう、あなたを愛しているなんていわない。
 あなたももう、私を愛しているなんて言わない。
 それでいい。
「寒いね」
 彼が言う。
 私は彼の指と自分の指を絡める。
 昔のように無邪気にとはいかないけれど、これが今の私なのだから、いいのだ。
「寒いね」


実を結ぶ桃




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