人気の店
「今日の昼飯は何にしようか」
腹をすかせた男が町を歩いていた。
どこかいい店はないかと探していると、近くに長い行列ができているラーメン屋があった。
「こんなに並んでいるなら、きっと美味しいに違いない。どれ、並んでみよう」
男が行列の最後尾に立つと、前にいるサラリーマンが話しかけてきた。
「やあ、あなたはここのラーメンがお好きなんですか?」
「いえ、今回が初めてですよ。そういうあなたは?」
「私も並ぶのは初めてです。なんせ、こんなに列ができているので、人気があるのかと思いまして」
サラリーマンの話によると、列に並ぶ全員が、同じような一見さんらしい。
男は不思議に思いながらも並んでいた。
店から客が一人出る。
並んでいた客が一人入る。
そのときに、並んでいた側の客は、必ず
「ああ」
といってから入るのだった。
列がどんどん進み、前に立っていたサラリーマンが、ああ、といって店に入っていく。
いったいどんな店なのだろうと、男は気になり、店の中を覗いてみることにした。
そして、やはり
「ああ」
と、納得がいったように声をあげた。
店には、席が一つしかなかった。
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