正直者な男
「閻魔様、私はうそつきです」
彼は罪を犯し、地獄に落とされた。
目の前では、閻魔大王が椅子に座っていて、生前の罪を正直に話せというのだった。
嘘をつけば舌を抜かれてしまうので、彼は正直にそういった。
「まず、私は物を盗みました」
「例えば、何ですか」
閻魔大王は、穏やかに問う。
「何でもです」
彼は答えた。
「金でも通帳でも仏像でも、何でも盗み出しては、豪遊していました。また、人も殺しました。女、子供、年寄りを殺して、そいつらからも金目の物を奪いました」
閻魔大王は、静かに聞いていた。
「他人から財産を騙し取る事もしました。騙されたことに気付いた奴らには、警察に言えば殺すと脅しました」
一気にまくし立てて、彼は息をつく。
「どうです、閻魔様。正直に話しました。これで舌は抜かれませんよね?」
閻魔大王は、穏やかな口調のまま答える。
「いいえ」
その答えに彼は慌てた。
「何故です! ちゃんと偽りなく答えましたよ!」
「お前は最初に、私はうそつきです≠ニ言いましたね。しかし、それからは正直に罪を告白しています」
彼の口の中に、舌を抜く道具が入れられた。
「うそつき≠セといったことが、嘘になってしまったのですよ」
そして、彼はついに、うそつきにも正直者にもなれなくなってしまった。
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