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きみのことを気にかけている僕


 僕は気が利かない。その自覚はある。
 相手が何を求めているのかの察しが悪いのである。
 いつも薄らぼんやりと無表情で突っ立ち、たまに小説を書き、日銭を稼いでいる。
 周囲の出来事には鈍感ではないほうだ。そうでなければ物書きはできないだろう。しかし、ならば敏感なのかと言うと決してそうではない。
 世間に適応できない化け猫、と評された僕は、そのとおり世間の流れについていけないのんびりとした存在なのである。

 僕の名前は春日野 桜子。

 君の名前は影山 悟……またの名を、あずさ。

 怒涛の世間に押し潰されそうになり、呼吸すらもできない僕は早々にドロップアウトし、ゴミ捨て場で猫と戯れていたところを君に拾われた。
 怒涛の世間に押し流されそうになり、息継ぎすらできない君はさっさと自分を守り、ゴミ捨て場で猫と座り込む僕を拾った。
 全く方向性が違うのだが、君と僕は似たもの同士なのだと思っている。
 僕は君が非常に気になる。
 小説のサンプリングとして、なんて野暮なことは言わない。
 人として気になる次第なのである。
 できれば僕のことを人間として意識してもらえると助かるが、そうすると君は次の悩み……色恋に身を投げ出さねばならなくなるらしいので、僕はじっと耐えるのみだ。
 君を苦しめたいわけではない。
 そうか、共に苦しんで生きるという、尖った道の歩み方もあるのか。
 そうだ、共に苦労して生きるという、鋭い道の歩き方もあるのだ。
 だが、もうしばらくは「化け猫」でいようと思う。
 疲れている君を癒してから、食らうのだ。なんて卑しい性根だろうか。のっぺりとした無表情な僕の中に、このような熱があったとは驚きだ。

「朝食ができたよ」

 君を呼ぶ。
 君が起き上がるのを見て、ぞわりと尻の付け根が逆立つような気分になった。
 今の僕は、君をどんな目で見ているだろうか……。




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