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昔咲いた百合


 商店街の果物屋で出会った彼女は、昔と違い化粧をしていた。
 昔といっても高校生の頃だ。まだ化粧の仕方を知らなかったうぶな娘たちだった頃だ。
 久しぶり、と彼女は言った。
 私も小さく手を上げる。
 彼女の隣には男性がいた。
「今度、結婚するの」
 彼女は言う。
「知ってるよ、はがきが来たから」
 私は言う。
 彼女は美しくわらった。
 寒さの中、果物屋のりんごのように頬が赤い。
 いや、寒さだけではないのだろう。
 きっと隣の男性のお陰でもあるのだろう。
「いい人そうだね」
 心にもない事を言った。
「ありがとう、優しい人なの」
 彼女は嬉しそうだ。
 小柄な彼女よりも頭二つ分大きい男性の腕を掴み、私に笑いかける。
 どうも、と男性が笑った。
 もう、彼女の隣は彼のものなのだろう。
 高校生の頃のように指と指を絡め、私に口付けることはないのだ。
 五年もたてば当然のことなのだけれど。
 私はりんごを買う。
 腕から下げたトートバッグにそのまま入れる。
「お幸せにね」
 笑いかけると、彼女は怯んだような、寂しげなような、そんな顔をした。
 そうしてから、笑った。
「あなたも」
 馬鹿だなあ。
 嫉妬なんてしないよ。
 君の幸せを祈っているよ。
 私はもう、君に愛してるなんて言わない。

 背を向けた。
 十二月の事だった。


昔咲いた百合




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