いま恋をしていますか?
無粋な事を言うものではないけれど、君は最近、妙にそわそわしている事が多くなったように思う。家に帰るのが遅くなった。
それでも構わないのだけれど。
僕はインターネットでレシピを見て、食事を作ることができるから。
不躾な事を言うものではないけれど、君は最近、変によそよそしくなる事が多くなったように思う。僕と目をあわさなくなった。
僕は元から目を合わせるのが苦手だけど。
目と目を合わせると強い敵意のようなものを受信しそうで怖いから。
僕は先に眠る。
寝室に用意された平たい布団の中、目を閉じて、体を丸めている。
「……ただいま」
控えめに聞こえた君の声に返す言葉はない。
君は最近、僕を避けている。
ならば僕も君を避けるのが礼儀なのだろう。そう思ってのことだ。
「……人間なのよね、どこからどう見ても」
今更なことを呟く君は、僕の背中をそっと撫でていた。化け猫だ化け猫だと笑っていた君は、夜にはこんなに心細い声でささやくのか……。僕は少しだけ感慨深い思いだ。
眠ったふりを続けていれば、君は僕の頬をさらりと撫でてくる。
くすぐったくて目が開きそうだ。やめてくれ。
「あんたが本当に猫だったら……構わず好き好き言えたのに」
ぴくりと肩が反応してしまった。今、君はなんと言ったのだ? 起きている事がばれないように、ううん、とむずがる声を出して布団の中にもぐりこむと、君が少し笑ったような気がした。
ねえ、君。
いま、恋をしてはいまいか?
まさかまさかの、この僕に。
気が利いた一言は今日も言えなくて、君が眠りに落ちるまで、僕の目は冴えたままだった。
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