今日はどんな日でしたか?
空がむっつりと灰色の雲で覆われている日に、君は友人たちと飲み会だと言って家を空けた。僕が留守番をしていようと提案したのだから、それに対して文句はない。
喜怒哀楽の大きな君だから、自然と周囲に好かれる。だから飲み会にも呼ばれる。
僕は平坦な感情しか持ち合わせていないから……少なくとも表向きは。だから、飲み会にも呼ばれない。いや、過去に呼ばれたことはあったが、断ったのだった。
「雨が降るかもしれないよ」
「なら折り畳み傘を持っていきましょうかしらね」
「それがいい」
表情筋が仕事をするのを忘れてしまったような無表情で、僕は突っ立っていた。
君が笑って手を振るのに、へらり、と力が込められていないお情け程度の笑みを浮かべて見送るばかりで、気の利いた一言も送ってやれないのだった。
パソコンに向かう。
地元の新聞は近所一帯が取っている。そのせいで僕のペンネームはここいらでは有名だった。
だからそんな僕を気遣って、今ここにいない君は僕のことを本名で呼ぶ。女々しい名前を。桜子、だなんて甘い春の匂いを感じさせる、まさしく春生まれである僕の名前を。
本名の方がペンネームのように聞こえると、君が言っていたことがある。
それを聞いて、僕は何と答えたか。
何も答えなかったのだったか。
相変わらず気が利かない奴なのである。僕は。
今日はどんな日だった?
君が帰ってきたら、とりあえずそう尋ねる事にしようか。
酒の席での愚痴や悪口。隣に座った誰それがこう言った。饒舌に語る君に、相変わらずのっぺりとした表情で、静かに相槌でも打っていようか。
頭の中では君に対する言葉が溢れて仕方がないというのに、とんと口から出てこないのが困りものである。
「たまには二人で……飲みませんか、なんて」
言えた暁には、僕は僕の勇気を肴に手酌したっていい。
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