半端な命
つくづく半端な命だったと思う。少年はビルの屋上でそう思いふけっていた。
何をするにも半端だった。だから親からも友達からも教師からも馬鹿にされた。
誰かを恨む気持ちはない。
自分を恨む気持ちもない。
ただ、生まれた時代が悪かった。
ただ、生まれた運が悪かった。
少年はそう結論付けて屋上から実を投げようとフェンスの向こう側に身を滑らせた。
「何事も中途半端だったな……」
ため息のように漏れる独り言が、風に舞って消え去っていく。
このまま、えい、と飛び降りてしまえば全てが終わるのだ。
果たして中途半端な自分にそんな真似ができるだろうかと考えて、小さく首を横に振った。できるかできないかではない。もう、するしかないのだ。
「やっぱり、ちょっと怖いけど……」
フェンスを握りながら、前傾姿勢をとる。これで手を離せば全てが終わる。全てが。
少年は目を閉じた。
手を離した。
そのままの姿勢で。
佇んでいた。
「……え?」
「半端な命だっていうなら、もう半分は私に下さいよ」
少年の手を掴む誰かがいた。シルクハットに燕尾服、顔は骸骨のマスクで隠されている不審な人物だった。背丈が大きい。
そして透けている。
フェンスがあるのに、それを通り抜けている腕が、少年の両腕を掴んでいる。
「わたくし、全日本、死神連盟の者でございます」
「……はあ」
「さっそくですが、捨てるご予定のその命、いただけませんでしょうか?」
「……どうやって」
「簡単な事です。わたくしが食べて、わたくしの寿命とするのです。有効活用でございます」
少年は、笑った。
笑って、断った。
フェンスの向こう側から戻ってきた少年は、小さな笑みを浮かべながら階段を下りて、人間の世界に、人間の生活に戻っていく。
半端な命だ。つくづくそう思う。
その半端な命を抱えて皆生きていくのだ。
半端な命をかき集めて、半端な命の塊を寿命としている、あの死神も。
たかだか死神一人の存在で、こうも気分が軽くなるとは思わなかった。
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