朝から始まる異常茶飯事
世界には、妖怪とか化け物とかいったものたちが存在する。私がそれを知ったのは、まだ幼い頃だったと思う。
その時はこいつらを普通の生き物だと思っていた。至る所に彼らはいて、遊んだり悪戯をしたり、争ったり笑ったりしていたから。
ただ、私以外に見える人がいないという事に、小学校を卒業する少し前、気づいた。その頃には人間の友達なんていなくなっていて、そして。
「貴ぃ様あぁ!! それは拙者の焼き魚でござるぅあ!」
「知るか、知るか馬鹿野郎、ごちそうさん、そしてざまあ!」
「おぉぉのれえぇぇっ!!」
「げひゃひゃひゃひゃひゃっ! ざまあ! 河童ざまあ!」
「滅びろ阿呆火車ぁーっ!」
異種族で形成された義家族が出来上がっていた。
目の前で物凄く精神年齢の低い争いを繰り広げる侍装束の河童(ガチで河童。人に化けてるとかじゃなく)と、ガテン系の……とび職だろうか、そんな服装で二足歩行する猫(悪人面)。
本気で殴り合いの大喧嘩に発展する事もある二人は朝からこんな調子だ。
私は幼い頃からこの二人と共に生きている。それぞれ居場所をなくしたもの同士、寄り集まっていた。
河童の方がいつもむきになる。くたばれぇ! とか、お主は一生独身を貫けぇ! とか大人気ない事を叫んではパンチを繰り出す。そのたびに家の壁にかけてある写真や皿が落ちて割れるので、抑えて欲しかった。
対する火車はどうなのかと言えばまあ嫌な性格をしていて、怒鳴って殴ってと直情径行にある河童を煽るだけ煽って逃げまくるというはた迷惑な奴だったりする。
「貴様なぞ中国市場に食肉として並ぶが良いわぁ!」
「やぁなこった。それよりてめぇ頭のハゲ何とかしな! はっは!」
「きいいぃぃっ!!」
テーブルの上のものを投げあう。
カーテンが引き裂かれる……ああ気に入ってたのに。
そして壁に穴が開いた。
……。
…………。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいでござるーっ!!」
「ちょ、ちょ、反省してる! してるからおめぇ、あれだ、助けてくれぇーっ!!」
あまりに酷いときは庭の木に逆さづりにして反省を促すのが、うち流。
だって、どうせ私以外には見えないんだし、お化けは死なないし、大丈夫。少しくらいきつくても。
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